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Et Après?—「テロ事件」後のフランス版ELLE誌より

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2015年1月7日—パリで世界中を震撼させたイスラム過激派のテロ事件が発生。犠牲となった人々を悼む数知れぬキャンドル。風刺週刊紙『シャルリー・エブド』襲撃を受け掲げられた、表現の自由を訴える思い思いのプラカード。“Je suis Charlie!”のメッセージ。パリを始めフランス全土で街路を練り歩くたくさんのフランス人の姿。事件以後つぎつぎ飛び込んでくる映像に、フランスが受けた衝撃の大きさ、深さを思ったものです。

フランスのファッション雑誌も、この衝撃と向き合いました。例えば、気のきいたセンスと親しみやすさ、読者に向けてファッション以外のひと言を発信する姿勢で知られるフランス版ELLE誌。事件後刊行された1月16日号は巻頭を含むかなり多くの頁をこのテロのことに費やしています。ニュースで見た人々の高揚がそのまま誌面にあると思われるかもしれません。しかし、ELLEが集めたのは、日本で見聞きするものとはまた違う、様々な声でした。

例えば、テロ事件の報道に接した子供達の声。幼児からローティーンまで様々なコメントが収録されています。10代のお兄ちゃん、お姉ちゃんには事態がもうすこしのみこめるものの、7歳、8歳の子供には「とてもひどい、大変なことがおこった」ということにつきるのです。

文学、映画界からたくさんのコメントが寄せられています。イザベル・アジャーニやイザベル・ユペールといった発言する女優たちの力強い言葉とともに目を引いたのが、アリジェリアのルーツを持ち、両親は共にイスラム教徒である女優ラシダ・ブラクニの声。

世の中を意識しはじめるティーンエイジャーの頃に『シャルリー・エブド』を知り、大いに笑った過去を持つ彼女。襲撃の原因と言われるムハンマドについての一連の漫画について、母のひと言を引用しています。「あんなもので私たちの信仰がゆらぐわけがない」。ブラクニが気にかけているのは、イスラム教を信仰するアラブ系、アフリカ系のフランス人にこのテロ事件が落とす「影」。事件後電車に乗った時、車内のいやな雰囲気が気になったそうです。彼女と同じマグレブ系の人々が、自分達の気配を少しでも消そうと小さくなっている。「冗談じゃない!」と反発する一方で、やはり心配になるのです。彼女の母に言わせれば「あの頭のイカれた連中は、私らの住む世界とはなんのかかわりもない」のに。

デモ行進の体験リポートで書き手が目撃したのは一致団結した群衆ではなく、曇天の下のろのろ歩く、様々な思いを持ち寄った雑多な人々でした。オランド大統領をはじめとするお歴々が行進するのをくさす人。「この場で”ラ・マルセイエーズ”を歌うなんて!」と怒る若者。目をまっ赤にしたその彼女。遠くアルベールヴィルから、友達の制止を振り切ってやってきた、スカーフ姿の十代の学生。ある女性の参加者はこんなメッセージを掲げていました—”Et Après?”(そしてこの後は?)。

通常より多く掲載された一コマ漫画、イラスト。同じ筆を持つ仲間の悲劇的な死に絵を描くどころではない精神状況に落ちてから、描く事でしか解決しないと絵筆を取り生まれた作品は、ファッション誌らしくかわいらしい絵柄のものもあれどどれも力強く、描き手の真摯な思いに満ちています。一部の作品に色濃く現れていたのは、描き手のよりパーソナルな喪失感、涙でした。『シャルリー・エブド』は、一度は手に取り「大人の世の中」を学んだテキストのようなもの。殺された漫画家達は「多いに笑わせてくれた、辛辣で懐かしいおじさん」のようなもの。そんな存在が傷つけられたことが、悲しいのです。

巻頭のコラムで編集長は語りかけます。「この悪夢から目覚め、明日のフランスを思い描こう」―雑誌が拾った様々な声が共有できる響きがあるとしたら、この言葉なのかもしれません。犠牲となった『シャルリー・エブド』のスタッフたちは、アプローチの方法には賛否両論あれど、目を背け何でもないふりをすることはしませんでした。今こそ目を開き、現実を直視する時。起きた事を誰かのせいにしている場合ではないのだと。

事件前から国産テロリスト問題にかかわってきたある識者のコメントも紹介されています。ムスリムやアラブ系の人々だけがテロリストのリクルーターのターゲットになるのではなく、あなたの息子、娘もテロリスト予備軍になりうるところまで、状況は来ているそうです。最近いつもと違ったそぶりを見せていませんか?いつもの友達と遊ばなくなった?既に問題を抱えているかもしれませんよ、と。

この号の表紙に使われたのは、瞑想するような表情を浮かべ青空を飛ぶ白い鳩のイラスト。平和の象徴であるオリーブの枝のかわりにくちばしにくわえているのは、緑色のえんぴつ。表現の自由と心の平和がともにある―そんな世界を取り戻したい。静かな祈りのような印象を受けました。

 

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