フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

What Valérie really wants …フランス大統領の EX を巡る考察

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ヴァレリー・トリールヴァイレールがオランド大統領と公式に別れてからはや半年が経つ。本当にお気の毒な人だった。大統領とはもともとぎくしゃくしていたらしいが、あのカッコ悪い密会(運転手付スクーターに二人乗りして逢い引きの場所へ移動、SPが朝食のクロワッサンをデリバリー)がゴシップ雑誌にスクープされ、全世界に喧伝されてしまった。伝統的にメディアから保護されてきた、尊重されるべきフランス大統領のプライバシーが、あっさり暴かれた歴史的瞬間だった―それまでは隠し子がいても黙認され不意打ちの報道は御法度だったのに。大統領の権威失墜を狙う政敵の陰謀だと主張できればまだ救いはあった。が、フランスではそうはいかない。報道する側も、政敵も、国民もこの密会はマイナス要因と見なさなかった。おやおや、フランソワは恋をしているよ、と肩をすくめるだけ。言い訳する機会もなく「関係が終わっている」ことを一方的に公にされ、あわただしくエリゼー宮を後にするしかなかった。(怒りに任せて宮に飾られていた国宝級のセーブルの壷を粉々にしたという噂もあるが。)ひたすら沈黙を守ってきた彼女に、正直同情の念を覚えたものだ。

Merci pour ce momentしかし、時期をうかがっていただけだったのだ。ジリ貧の支持率に苦しむオランド大統領に、暴露本の出版という形で平手打ちを喰らわせた。”Merci pour ce Moment”(さしあたっては感謝します)と銘打たれた本は、発売と同時に爆発的に売れ、すぐに増刷が決定。売りは密会報道直後の大統領との愁嘆場を、包み隠さずぶちまけたところだろう。これまで誰もノックしようとしなかった大統領の寝室の扉を、内側から蹴破ったかっこうだ。これにはちょっと驚いた。『パリ・マッチ』誌のレポーターをはじめ政治の周辺でマスコミ関係者として仕事をしてきた人が、自ら非フランス的なゴシップ雑誌の側に立ってこんなことをやってのけるとは!ジャーナリストとしての今後が危うくなりませんか、とも思うのだが。

売り上げはさておき、この本に対するメディアの反応は冷ややかだ。「センチメンタルなポルノグラフィ」の一言で片付けていたりする。こんなゴミ本、当店の棚には置きません!と宣言する書店も少なくなく、ネットでは不買キャンペーンも立ち上げられた。眉をひそめたのは大統領側の人々だけではない。政敵である国民戦線の党首マリーヌ・ルペンも「フランスへの冒涜だ」とコメント。手記によって大統領を叩きのめすというところまでいっていない。なるほど、フランソワはイヤな奴かもしれない。しかし大統領の座から即刻引きずり下ろす程のインパクトはない、のである。

また、手記に微妙な影を落としているのが、文中に垣間見えるトリールヴァイレールそのひとの姿だ。メディアが本から抜き出した美味しい記述をつなぎあわせてみると(この抜粋というやり方に彼女は立腹しているそうだ―マスコミ関係者にあるまじきリアクションだが)、浮かび上がってくるのは…。例えば、大統領がブリュッセルで開かれたサミットに出席した際のこと。直前にドイツのメルケル首相と会談し多忙だった大統領は、会談からサミット出発までの間二人だけで話をしたりキスする時間をつくれなかったことがあった。このことについてヴァレリーは大統領に宛てた長い手紙をしたためる。サミットが始まるまでに読むようにと言付けて。例えば、大統領選に勝利した時の話。当選を知らされて興奮したオランド氏は、写真についてのヴァレリーからの提案に耳をかさなかった。聞き入れられなかったことにショックを受けて、彼女はバスルームに駆け込み、床に崩れ落ちる。おやおや。いたって傷つきやすい、不安定な心の持ち主であるらしい。政治家のパートナーには不向きとしかいいようがない。難しい立場に立たされっぱなしで心労はいや増すばかりだったはずの大統領が、プライベートではこういうめんどくさい人の機嫌も取っていたとは。なんだか大統領の方ががお気の毒に思えてしまうのである。(大統領のもうひとりのEX、ロワイヤル女史が、トリールヴァイレールの出現により長年暮らした「子供達の父親」とお別れしてから取ってきた大人な態度と比べてみると興味深い。もっともこうやって常にロワイヤルと比較されることが不安定さに拍車をかけたのかもしれないが。)

本の中で述べられた「貧困層に対して冷淡」という大統領への批判やを様々な人への論評も、こういう人の目から見ているのかと思うと、信頼できるかどうかが微妙になってくる。リベンジ本としては、ずいぶんヤワなのだ。

今回の手記出版を決意させた理由は何だったのだろう。執筆の見返りとして出版社から50万ユーロをせしめたと囁かれているが、おカネのためだけにペンを取ったというのは考えにくい。大統領のイメージダウンを狙ったつもりならこのもくろみも大成功とは言えない。告発するご本人のイメージダウンにもつながる内容も公にしてしまっているのだから。彼女が一番望んだのは、金儲けでも復讐でも復権でもなく、「わたしが気の済むように」したかったということではないだろうか。ロワイヤル女史とは違う、魅力的な女性であるこのわたしが、大統領と暮らして味わったつらさ、悔しさ、悲しさを世間にぶちまけたい。なぜわたしだけが苦しまなければならないの?そんな個人的な強い思いに支えられていれば、手記出版による波紋も、海外メディアの好奇のまなざしも何でもないのかもしれない。恵まれているとはいいがたい出自から出世の階段を駆け上り、史上初の「大統領の婚姻関係を結んでいない公的パートナー」としてフランスの顔の役割を果たすところまで登り詰めながら、衝動を止められなかったのだろうか。

余白たっぷりにレイアウトされた320頁もある彼女の個人的なぶちまけをお金を払って読んだフランス国民はどうリアクションするだろう(これで23ユーロもするなんてぼったくりとの声もあるらしい)。好奇心に勝てずに手に取った本の最後の頁を読み終わったとき、どんな感想をもらすのだろう。そこのところが一番知りたい。

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。