フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

フランスのオキュパイしない若者たちとノマドな生き方

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去年の秋に世界中を吹き荒れた「OCCUPY XXX =占拠運動」だが、意外だったのは「デモの国フランス」での支持者が意外に少なかったことだ。フランスのアンケート調査機関IPSOSが今年初めに行った世論調査では、占拠運動をも最も支持したのは、アメリカ人が61%で1位、カナダが60%で2位。一方、占拠運動に対する支持率が最も低かったのはフランスの18%だった。フランスの若者たちは何を考えているのだろうか。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2012年 01月号 [雑誌]『クーリエ・ジャポン』(2012年1月号)に載っていた「パリの“怒れる若者たち”に聞いた『ユーロ危機と私たちの未来』」という記事には、自力で人生を切り開こうという若者たちの姿があった。ある若者は商業・経済学校で学んだあとに就職を探したが、納得いく仕事がなかなか見つからず、アルバイトで食いつないでいた。しかし負の連鎖から脱出するために電子商取引関連の職業訓練を受けることを決めた。だからと言ってそのあと簡単に仕事が見つかるとも思っていないが、経済状況に合わせて「柔軟」に仕事をしていくことに対して抵抗はないという。

情報通信科学の博士号を持つ27歳の女性は、教員資格を取ったが、ポストがない。彼女は「個人事業主」になり、「細々とした仕事をいろいろ掛け持ちすること」を選んだ。彼女も自分を経済状況に「適応」させていると語る。フランス政府は2008年に個人事業主制度=EIRL (L’entrepreneur individuel à responsabilité limitée)を創設したが、その数は68万人以上に達する。この制度は起業を促すことが目的だったが、非正規雇用を増やすための規制緩和の一環だという批判もある。彼女は翻訳をしたり、文化イベントのコーディネーターをやったり、出版業界の仕事を並行してやっている。もちろん教員のポストを諦めたわけではないが、いろんなカードやスペアタイヤを持っていた方がよいという考え方だ。不安定だが、そういう働き方も悪くないと思っている。フランスの若者は確固としたキャリアプランを持っているわけではない。将来設計をしようにもできないのが現実なのだ。

最近、ノマドな働き方に関する議論が盛んである。「正規雇用が当たり前だった時代は過去のものとなり、すべての人間が契約社員やフリーランスとなる社会へ移行しつつある」とジャーナリストの佐々木俊尚は言う。かつては「会社に頼れば」何とかなったが(高福祉で公務員の多いフランスは「国に頼れば」何とかなった)、今は自分自身で人生を切り開かなければならない。この変化には否応なしについていかなければならない。そのための知恵と術が「新しいノマド」の生き方である。

しかしノマドな働き方を過度に美化する必要はない。実際のノマドたちが厳しい気候条件や地理的な条件の中で生きているように、ノマド的な生き方を余儀なくされるのは、人間がこれまで守られてきた反復的で安定的な覆いをはぎ取られ、厳しいむき出しの世界に放り出されたからだ。ノマドは選び取られるばかりではなく、多くの場合ノマドにならざるを得ないのだ。ノマドは常に過渡的に生きなければならない。何も明確に決定されず、つねに可能性を生きなければならない。この生き方に耐え、慣れなければならない。それは人生のレールが決まっていない、産業構造が固定化せず、変化の速い社会の反映なのだ。

成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ (ちくま新書)そういう意味でフランスの「個人事業主制度=EIRL」は象徴的な制度だ。まさにみなが「個人事業主」になり、柔軟な形で仕事をする。これが、それ以上でも、それ以下でもない、ノマドの現実的な姿ではないだろうか。状況も技術も趣向も刻々と変化していく中で、企業も事業の入れ替えやビジネスモデルの変更を迅速に、柔軟にやりたい。つまり企業にとってもひとりの労働者を一生囲っておくメリットはなく、その都度最適な人材を雇いたい。すでに人材の適切な配分が企業の生命線になっている。

現在の労働者は、このような企業の要請に応えるために、未知の事態に柔軟に対処できることを求められている。それに備えて、新しい知識や技術を獲得しながら学び続けることも不可欠なのだ。新たな職業訓練を受けるというのもその一環だ。フランスも日本と同じように正社員は手厚く守られていて解雇しにくい。だから人を雇うことが大きなリスクになり、フレッシュな人材が必要なときにも思い切って雇えない。それが企業の機会損失にもなっているし、失業率の高止まりの一因になっているという(波頭亮氏はそれを克服するためには「人材の流動化による競争と、ベーシックインカムも視野に入れた政府による高福祉の組み合わせ」が最適だという)。

ところで、フランスでのオキュパイ運動に参加した失業中の35歳の男性はラ・デファンスでの抗議活動に100人程度しか集まらず、フランスの若者たちは怒ることを止め、諦めた感じがすると言った。つまりウォール街占拠に対する低い支持は諦念に起因するのだと。一方でウォール街の近くでテントを張って寝泊りするより、自分の菜園を作って脱成長のムーブメントに参加する方が意味がある、と発言する若者もいた。しかし、誰もアクションを起こさなくともよいとは思っていない。彼らは「アラブの春」のインパクトを感じている。やはりインターネットなのだ。インターネットから情報を得るようになると、メディアの報道の弊害も見えてくる。それは権力の一形態にすぎなくなっている。彼らは何よりも民主主義の機能不全を感じ、システムを根本的に変えなくてはいけないと思っている。共和国の「自由、平等、友愛」の理念に立ち返るべきだとも。

 

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