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フランスの新しいフォークポップ

text by / category : 音楽

最近フランスではフォークポップ的な音楽が注目を集めはじめてきているようです。フォーク&カントリーは従来フランスでまったく人気がないジャンルでしたが、最近このジャンルの音楽で一部の注目を集めるミュージシャンが現れてきています。今日はフランスの新しいフォークポップやフォーク&カントリーを数組紹介してみたいと思います。

まず去年の年末に発表されたデビューアルバムがもしもう少し早めに出ていれば、確実に年間ベストに選んでいたパンノワールから。フランス中部のオーヴェルニュ地方在住のフランソワレジス・クロワジエというひとがやっているユニットです。以前はサントオギュスティーヌという名前のユニットで英語で歌っていたそうですが、パンノワールではフランス語で歌いはじめました。

Pain-Noir – La retenue https://youtu.be/6CFd-2i6Hm0

フランソワレジス・クロワジエは本職が小学校教師で、画家でもあるそうです(このクリップに出てくる絵は他のひとによるもの)。この歌はダムに飲み込まれる村を題材にしたものですが、他にも自然や環境を題材にした歌が多く、特に水のイメージが印象的です。それでも特にエコロジストというわけではなく、むしろ現代詩を歌にしたような感触です。

決して強烈な印象を与える音楽ではありませんが、このデビューアルバムは商売っ気のないひとつの芸術作品のようなアルバムです。1曲に1枚の厚紙を用いたぜいたくな歌詞カードも含めて味わいたいものです。

最近フォークポップ風のミュージシャンが多く現れてくる前から地道に活動しているオルタナティヴカントリーのグループが少数ながら存在しました。モーパッサンの小説の題名「テリエ館」をグループ名にしたラ・メゾン・テリエは今年デビュー10年を迎えますが、ローズマリー・スタンドレーのグループ、モリアーティとともに、この傾向を代表しています。今年6枚目のアルバムAvalancheを発表しました。この曲は口笛とトランペットがウェスタン映画を思わせる、哀愁に満ちた曲です(ラ・メゾン・テリエはクラリカの今年の新作にも参加しています)。

La Maison Tellier – Amazone https://youtu.be/jhsEJqE0oQ0

上記2組とはちがって明確にアメリカ志向の音のフォークを歌うミュージシャンが最近になって現れてきていて、新しい世代の登場を感じさせます。今年デビューアルバムを発表したバティスト・W・アモン(1986年生まれ)がその代表格です。アメリカ風の音楽をやることに対する屈託がないわけではないのですが、ヨーロッパの匂いをほとんど感じさせない歌を歌っています。特にアルバム冒頭の曲Joséphineは、オルタナティヴという形容が必要ないもろカントリーですが、そのような音楽が今のフランスから出てきたということに面白さを感じます。マーク・ネヴァース(ラムチョップ)のプロデュースによるナッシュヴィル録音のアルバムL’insoucianceには、ウィル・オールダム(ボニー・プリンス・ビリー)とのデュエット、ケイトリン・ローズとのデュエットなどが収録されています。

Avalanche
Pain-NoirComme avant

Baptiste W. Hamon – Columbia https://youtu.be/TrhuT570VVU

「パリと聞いてももはや誰の影も思い出さないようなところ、ここミシシッピーで、きみを愛するのにまだ言いわけが必要なのかい」と歌うこの歌はラヴソングですが、この女性をアメリカの音楽に置き換えてみると、周囲で敬遠されがちなフォーク&カントリーに対して偏愛を抱くフランス人ミュージシャンのはにかんだ屈折が感じられます。ちなみにセカンドネームのイニシャルWは、米国人風の名前Walkerで、自分で勝手につけた名前だそうです。

バティスト・W・アモンのクリップのほとんどに登場し、アルバムにもデュエットで参加している女性シンガーソングライター、アルマ・フォレール(1993年生まれ)はまだアルバムを出していませんが、今いちばん活躍が期待されている才能豊かなミュージシャンです。

Alma Forrer – Comme avant https://youtu.be/sQtPIrcQau8

このアルマ・フォレールも曲を提供しているポムことクレール・ポメは1996年生まれで、やはりまだアルバムを発表していませんが、メジャーレーベルからデビューする予定なので、もっぱら評論家受けがよい上述のミュージシャンたちよりも広い人気が獲得できそうです。最初はアイドルポップ路線で売り出そうとしていたようですが、本人がカントリー好きということでカントリーポップ路線になっています。こんなに若い世代でカントリー好きを公言するひとが現れてくるとは、フランスも変わったんだなと思わせます。最近ソロアルバムを出したシド・マターズのメンバーOことオリヴィエ・マルグリが参加しています。

Pomme – En cavale https://youtu.be/MPTUxl50PkY

モリアーティやラ・メゾン・テリエのようなオルタナティヴカントリーのグループが21世紀になっていくつか登場してきていたものの、フォーク&カントリーが時代遅れの年寄り向け音楽と見なされてきたフランスにおいて、どうして最近になって突然このような若手ミュージシャンたちが現れてきたのかはわかりません。それでもフランスにかぎらず、世界のアンダーグラウンドシーンでフォーク的な傾向のミュージシャンが増えてきているという印象があります。パンノワール、バティスト・W・アモン、アルマ・フォレールは「アンダーグラウンド」をフランス語訳した名前のレーベル、ラ・スーテレーヌのコンピレーションで注目されたことを考えると、フランス語で歌う無名ミュージシャンを紹介するこのレーベルの貢献がかなり大きいのかもしれません。

フランスにおいても前からアメリカ同好会ノリのフォーク&カントリーはたぶんあったのでしょうが、これらの新世代のミュージシャンたちの音楽には、「だってアメリカが好きなんだもん」という閉鎖的な仲間内の音楽とはちがう、フランスの新しい歌としての訴求力があるために、注目を集めはじめています。米国風のフォーク&カントリーのジャンルに興味のないひとにも訴えかける歌の力があるのです。バティスト・W・アモン、アルマ・フォレール、ポムのいずれも、フランスの若手ミュージシャンの代表であるヴィアネの前座を務めたことがあります。ヴィアネはヒット曲を連発して、今年のヴィクトワール・ド・ラ・ミュジックで最優秀男性アーティスト賞を受賞しました。ヴィアネはもっぱらギターの弾き語りを得意とするミュージシャンなので、彼のような歌手が人気を集めていることからも、フォークポップがアンダーグラウンドにとどまらない人気を獲得しはじめていると言えるのでしょう。これがただの一時的な流行で終わるのか、それともフランスのポップスの中に新しいひとつの潮流をつくるのか、注意深く見守っていきたいと思います。

@futsugopon

PROFILE:1967年生まれの日仏通訳。4月にアルジェリアから帰国し、現在待機中です。
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posted date: 2016/May/30 / category: 音楽
cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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