フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

今月の1曲 “Starfish and Coffee” Prince (1986)

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プリンスさん急死、のヘッドラインに呆然とした一人だ。一枚のアルバムは体の一部になってしまったのではないかと思うほど聴いて聴いて、聴いた。そんな特別な一枚から選んだのがこの曲。キュートな曲を作るのがとても上手な人だったけれども、とりわけ彼らしいキラキラ感にあふれていて、イントロのベルの音も楽しい。でも、なぜヒトデとコーヒーなのか?

その謎がようやく解けた。共作者で恋人だったスザンナ・メルヴォワン(ウェンディ&リサのウェンディとは双子の姉妹である)が、この曲が作られたいきさつをインタビューで語ってくれた。シュールな言葉遊びの産物ではなく、彼女の小学校時代のクラスメート、シンシア・ローズの思い出を歌にしたものだったのだ。

Sign O the Times既にスーパースターだったプリンスと、スザンナが過ごした時間は意外にも静かなものだった。共に音楽一家に生まれ、曲を作り演奏をして育ち、ハイスクールを出たら迷わず音楽で身を立てる道を選んだ二人にとって、スタジオで一緒に音楽の中に身を置いていることが喜びだった。そうでないときは、ミネアポリスの郊外を車で流し、音楽を聴いたり、子供の頃の思い出や秘密を打ち明けたりしていた。そんな時にプリンスに話したのが6年間同じクラスで過ごし、スクールバスで一緒に学校に通ったシンシア・ローズのことだった。

シンシアは「変わった」子だった。世の中が普通の子とはぜんぜん違って見えているみたい。独特なこだわりもあった。例えば、好きな数字は絶対12で、ずっと変わらない。朝、教室のドアの前に一列に並んでみんなが担任の先生へ挨拶するときは、いつでも一番最後。朝ご飯のメニューだっていつも同じ。

毎朝、スクールバスのいつもの席でご機嫌で体を揺すっているシンシアにみんながおきまりの質問をする。「今朝は何を食べたの?」「ヒトデとナントカカントカ!」シンシアもいつもの質問をする。「今日の「私の好きな数字」はなーんだ?」「12!」見事言い当てられてびっくりしながらも、うれしくなったシンシアは、曇った窓ガラスに指で大きなスマイルマークを描いてくれる。いつもニコニコしているシンシアのことをみんなが普通に好きだった―毎朝ヒトデとナントカカントカを食べ12という数字を好むハッピーな人々の住む惑星から地球に落っこちてきたみたいな、そんなシンシアのことが。

ある秋の午後、プリンスの家のキッチンでくつろいでいると、プリンスが言った。シンシア・ローズのこと、詞にしてみてくれる?書き上がったものを手にして、プリンスは地下のスタジオへ直行した。しばらくして、戻ってきたプリンスは“ナントカカントカ”を“コーヒー”に変えていいかたずねた。「ええ、どうぞどうぞ!」。10時間後、レコーディングエンジニアに呼ばれて、スタジオの中に入ると、疲れてはいるものの、やさしい微笑みをうかべたプリンスが待っていた。「ほら、出来たよ!」

なぜプリンスがその気になったのか?最愛の人(かの”Nothing Compares to U”を含め当時の美しいバラードは、スザンナとの関係から生まれた)を喜ばせたかったのかもしれない。しかし、プリンス自身が、このシンシア・ローズの話に感じる所があったのではないかと思う。彼も、全く独自の世界、美意識を貫いてきた人だった。音楽の垣根をとっぱらい、プリンス的としかいいようのない音楽で、世界を征服してみせた。しかしそのパープルでギンギンなビジュアルについてはとやかく言われ続けたし、ジャンルに固執する人々からは「白ご飯の中の小石」のように見られていた。世間がどう思おうとキラキラとしたマイ・ワールドを生き、回りの人をもハッピーにしたシンシア・ローズに自らを重ね、特別なシンパシーを感じていたのかもしれない。

スザンナと別れずいぶんと経ってから、プリンスは、マペットの番組でこの曲を再演している(コドモの頃のプリンス人形も登場し、歌詞をわかりやすくヴィジュアル化してくれている)。やはり彼にとっても、スペシャルな一曲だったのだろう。

関心のある方はこちらをどうぞ。

www.youtube.com/watch?v=cl_t6efp8zA

Plus ONE…

 プリンスは、実は誰よりもブラックミュージックを愛し理解した人でもあったと思う―ド派手なオリジナリティのおかげでなかなか理解されなかったけれども。最高の喉を活かしきれず「昔の人」扱いに甘んじていたブラック・ミュージック界のディーバに曲を提供し再び輝かせてみせたのも、深い愛情があったからこそだと思う。声にはり倒されてみてください。印象的なギターソロはもちろん彼。

www.youtube.com/watch?v=58dovnV5fYY

 

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。