フランス産のメロディはもっぱらシャンソン、フレンチ・ポップスというラベルをはって輸出され、「舶来もの」として親しまれています。しかし、中には、そうしたラベルがすっかり取れてしまい、単に「すてきな歌」として愛されているものもあります。そんな稀な歌を作り歌って世に送り出したのが、シャルル・トレネです。例えば彼の代表曲、”La Mer” は海を越え全く違う英語の衣装を着せられ大ヒット。今や英語のスタンダードナンバー ”Beyond the Sea” として親しまれています。何のことを歌っているのかわからなくとも、ついハミングしたくなるようなおおらかで明るく甘いトレネの歌は、「みんなのお気に入り」として演奏され続けています。
トレネの作でこれまた世界中で親しまれているのが今回選んだ1曲。発表されたのは戦前ですが、フランソワ・トリュフォーの映画『夜霧の恋人たち』で使われたり、新旧硬軟の多くの歌手に歌われています。今回ご紹介したいのは、バンジャマン・ビオレが歌い直したバージョン。去年発表したトレネ作品のカバーアルバムに収録されていたものです。
とてもスウィートなメロディに、過ぎ去った恋の思い出をリリカルに綴った言葉がのっかって、素直に歌うだけで十分訴えるところがある―そんな完成されたこの曲を歌手達は、麗しいアレンジとともにより甘美に、糖度を上げるようにしてきた傾向があります。が、バンジャマン・ビオレは違ったアプローチを試みました。
ギターにベース、ドラム、ピアノといった簡素なセッティングに、ジャズを感じさせるごく少ない音数のバック。歌い上げるより囁くような歌い方。超微糖仕立てです。が、それだからこそ、メロディの甘さはいっそう際立ち、官能的ですらあります。今のフランスを代表する才人の、粋なマジックを見せられた、そんな感じです。
聴いてみたい方はこちらからどうぞ。
海を越えたこの曲は、”I wish you love” という新しいタイトルと別の英語の歌詞を得て、今に至るまで数多くの歌手に歌い継がれ、息長く愛されています。別れに際し愛した人の幸せを心から願う気持ちを洗練された言葉で綴った英語詞の良さも魅力の一つ。が、このメロディがあったからこそ、そんな粋な言葉がでてきたのかなとも思います。聴いてみたい方はこちらで。歌詞を大事に歌うダスティ・スプリングフィールドのバージョンです。
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