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今どき珍しい(?)ピアノ伴奏だけのシャンソン、2015年の新作2枚

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ピアノ伴奏だけのシャンソンの優れたアルバムが2枚発表されたのでご紹介します。

まず一枚目は、シリル・モカイェシュとジョヴァンニ・ミラバッシによるアルバム Naufragés (海難者)。シリル・モカイェシュは1985年生まれの歌手で、十代の頃はテニス選手として期待されたそうですが、ロック歌手になって、これまでにグループとして1枚、ソロとして2枚のアルバムを発表しています。グローバル化時代の資本主義を批判して、「どうやら僕はコミュニストらしい」と激しく歌う、2010年の Communiste という社会派の歌が特に注目を集めました。レオ・フェレがよく引き合いに出されますが、レオ・フェレの文学的知性とはちがい、真っ直ぐな情熱のほとばしりが魅力です。

今回作はイタリア人ジャズピアニストのジョヴァンニ・ミラバッシと組んだカバーアルバムで、全編ピアノだけをバックに歌っています。歌われているのは、シャンソンの世界で海難事故に遭ったかのように、正当な評価を得られなかった不遇の歌手の忘れられたシャンソンです。天寿を全うできなかった歌手や、さまざまな事情で人々に理解されなかった歌手の、胸を引き裂くような歌が多く選ばれています。

Naufrages [Analog]レパートリーとしては、たとえば2011年に自殺したコミュニストの歌手、アラン・ルプレストと、アンリ・サルヴァドールの名曲「シラキューズ」の作詞で知られるベルナール・ディメーの曲が2曲ずつ選ばれています。ロック界からは、孤独な悲しい歌を得意としたマノ・ソロとダニエル・ダルク(元タクシー・ガール)です。またソ連の歌手ウラジミール・ヴィソツキーの歌も選ばれています。コミカルな大ヒット曲 Qui c’est celui-là のせいで真価が認められなかったというピエール・ヴァシリウ、有名な俳優・歌手セルジュ・レジャーニの息子であるがために評価されず、35歳で自殺したステファヌ・レジャーニの名前もあります。

シリル・モカイェシュの歌は熱く、ときに芝居がかったように聞こえますが、そのストレートさには嘘がないと感じます。ピアノ伴奏だけのプロダクションにはあまり現代性が感じられないのが残念ですが、逆に昔ながらのシャンソンの魅力を感じさせるとも言えるでしょう。

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(Cyril Mokaiesh & Giovanni Mirabassi, Naufragés, Un Plan Simple/Sony, 2015)

もう一枚は、社会派シャンソン界の重鎮アンヌ・シルヴェストルと、その衣鉢を継ぐアニェス・ビールによるデュエットアルバム、Carré de dames (クイーンのフォーカード)です。もっともこの題名が示すように、これはドロテ・ダニエル、ナタリー・ミラヴェットという二人の女性ピアニストを含めた四人の女性のアルバムとして発表されているので、デュエットアルバムと呼ぶのは失礼かもしれません。

Carre De Damesアンヌ・シルヴェストルは、もともとシャンソン界のなかでそれほど目立つ存在ではなく、日本人にはあまりなじみがないかもしれませんが、近年アニェス・ビールやケベックのチェロ奏者ジョラーヌなどによる再評価が進んでいるフェミニストの歌手です。このアルバムにも収録されている Non, tu n’as pas de nom という、中絶を歌った歌などが有名ですが、子供の歌の歌手としても知られています。1934年生まれということですから、もう80歳を越えていて、さすがに衰えが感じられますが、それでも張りのある歌声を聞かせています。このアルバムは二人の歌手の新旧のレパートリーをほぼ交互に配置したものです。シリル・モカイェシュと共演しているジョヴァンニ・ミラバッシの作曲によるものもあります。

シリル・モカイェシュの生真面目すぎる歌と比べると、40歳も年齢がちがう師匠と弟子のような関係の二人の女性歌手のやりとりには、軽妙なユーモアが感じられて、悪くありません。三年ほど前から四人によるコンサートを行っているそうなので、舞台で見ると楽そうです。

しかしこのアルバムの終盤はシリアスな展開を見せます。女性蔑視がはびこる社会に対する苦い皮肉を込めたアンヌ・シルヴェストルの歌 Juste une femme (たかが女の話)に、「こんなに悲惨な狂った世界に産んでくれてありがとう」と痛烈な皮肉を込めて歌うアニェス・ビールの代表曲 Merci maman, merci papa が応え、最後のアンヌ・シルヴェストルのフェミニストとしての代表曲 Une sorcière comme les autres (ありふれた魔女)にいたる流れは、きわめて感動的です。

今回紹介した二枚のアルバムは一種の企画もので、その音楽性はいずれも2015年に出たアルバムとしての現代性を感じさせるものではなく、古臭いと感じるひとも多いでしょう。両方ともピアノの演奏の行儀がよすぎるのが難点です。それでも、今は失われたかに思われていたシャンソンの伝統を感じさせてくれるものとして、記憶にとどめておきたい佳作だと思います。

www.franceculture.fr/emission-chanson-boum-carre-de-dames-2015-10-11 (ポッドキャスト)

(Anne Sylvestre, Agnès Bihl, Dorothée Daniel, et Nathalie Miravette, Carré de dames, Banco Music, 2015)

@futsugopon

PROFILE:私はここ数年アフリカ方面で日仏通訳をやっています。来春には帰国の予定です。
www.proz.com/profile/1317506

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