フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

Tu Kiffes La Vie!! ナウェル・マダニが放つ新しい笑いの Groove

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ファレル・ウィリアムスの特大マラソンヒット”Happy”。ご機嫌なビデオクリップもヒットの原動力となりましたが、アーティストの推奨もあって世界中のあちこちでこのクリップがカバーされ、作り手の個性やお国柄を反映したあまたの作品が発表されています。フランスも例外でなく、チャリティ目的の動画を含めあれこれアップされていますが、一番人気なのがコメディエンヌ、ナウェル・マダニが仕掛けた“Tu Kiffes La Vie”。「とほほ…な事もあるけれど、人生捨てたもんでなくはない?!」という歌詞もつき、オリジナル度の濃い内容になっています。再生回数は6万回を超え、隠れたヒットチューンとと呼んでもいいほどです。

マダニは1983年生まれのアルジェリア系ベルギー人。クリップのタイトルでも使われているアラビア語由来のカジュアルフランス語、”Kiffer” を ”aimer” に変換しておしゃべりする若い世代の間で圧倒的な支持を得ています。ステージでの彼女のスタイルは、一言で言うならば、フランス流ヒップホップ・トーク。独自のリズムにのってくり出される派手な動きと速射砲のようなしゃべりはラップを連想させます。デフ・ジャム・フランスと契約したお笑い系アーティスト第1号になったのも納得、です。コメディエンヌとして成功するまでの来し方をスタンダップ・コメディに仕立てた一人舞台 ”C’est Moi La Plus Belge” は大入り満員。コケティッシュかつ上品、という伝統的なコメディエンヌの流れを打ち破る、旬な人なのです。

マダニのこのユニークなスタイルは、そもそも彼女がコメディの世界とは縁のない人だったことに由来しています。もともとは、コリオグラファー志望。生まれた頃からミュージッククリップがあった世代で、テレビで流れるマドンナやジャネット・ジャクソンといったアメリカ製ダンス・ミュージックのクリップを繰り返し見ては、友達とチームを組んでダンスシーンを再現し遊んでいました。本場アメリカへダンス修行に行き、パリでフランスのラッパーのビデオクリップにダンサーや振付師として関わったり、ヒップホップ系音楽番組の司会をするなど、音楽とダンスに常に関わり続けてきたマダニ。しゃべりにキレのある動きがついてくるのも、ごく自然なことだったと言えます。

 たたみかけるようなトークも、タフな子ども時代に磨いたサバイバルの道具だったりします。2歳の頃、マダニは生死の境をさまようような重傷を負います。テープルの上で踊っていてバランスを崩し、油が煮えたぎる鍋の中に落っこちたのです。看護士だった母がすぐ手当てし病院に運んだおかげで命は取り留めたものの、3度の大やけどが癒えるまでには何年もかかりました。小学校にあがるころになっても、髪が生えたのは頭の半分だけ。帽子をかぶる事を特別に許可されましたが、いじめの格好のターゲットとなります。毎日しつこくからかわれしょげていたマダニに、母はこうアドバイスします。「いじめられる前に、いじめる相手を言葉でやっつけちゃいなさい。誰しも欠点があるもの。よく観察して、ちょっかいをかけようとする相手に口で反撃すれば、いじめるどころじゃなくなるはず。」このアドバイスは大いに役に立ちました。マダニはいつの間にかサンドバック状態を脱し、リーダーシップを発揮する強い女の子へと成長したのです。

とんと縁のなかったコメディの世界にマダニが目を向けるようになったのは、「間違い」がきっかけでした。アメリカ留学中、ダンスのクラスと間違えて演技のクラスを申し込んでしまったのです。指導していたのは、ニコール・キッドマンやジュリエット・ビノシュといった映画スターを教え子に持つ名教師、スーザン・バトソン。訳もわからず即興演技をさせられたマダニに、先生はこう言い放ちます。「あなたは演技をするために生まれてきたのよ。俳優になりなさい!」突然のことで大いに面食らったものの、演じる事のおもしろさに目覚めたマダニは、単に舞台に立つのでなく観客を笑わせるスタンダップ・コメディに自分の可能性を懸けてみようと決意します。

 帰国後地道に活動していたマダニに声をかけてくれたのが、Papy というあだ名のおじさんでした。もとリセの教師で若者の演劇活動に長らく関わり若い才能を発掘し育ててきた名物おじさんである彼は、彼の元から巣立ち成功したモロッコ系コメディアン/俳優のジャメル・ドゥブーズが主催するアメリカン・スタイルのスタンダップ・コメディのショーケース、”Jamel Comedy Club” のオーディションを受けないかと誘ってくれたのです。エスニックなルーツを持つ野心まんまんのオトコどもの集団に、ただ独りのコメディエンヌとしてマダニは加わります。覚悟はしていたものの、想像を超えるいじめが待っていました。野郎同士でアイツより少しでも多く笑いを取りたい、目立ちたいと日々しのぎを削っているのに、女ということだけで客の関心も笑いもさらっていってしまうとはどういうことよ!少々なことではびくともしないマダニも音を上げ、プロデューサーのドゥブーズに訴えてみもしましたが、かえって逆効果でした。いろいろあって最終的に首を宣告され、彼女は戦いの場を去ります。つらい経験でした。

しかし、ここでくじけてしまわなかった。スタンダップスタイルとは違う笑いをマダニは模索します。見つかった答え、それはインターネットの動画サイトを活用することでした。10数秒間の超ショート・コメディスケッチを作成し、”INSTAWELL”という名前で続々とネットにアップしたのです。笑いの質も、しゃべくり一辺倒の時とはがらっと変わりました。彼女がこだわったのはフランスの普通の若い男女が一度は経験したことがあるような「日常生活の笑っちゃうような瞬間」。映像だからこそ捉えられる「間」のおもしろさ、微妙なニュアンスを絶妙に盛り込んだ作品群は、大いにウケます。とんがったマシンガントーク・ボムシェルから、ネットが生活の一部である若い世代の(特にフランス女子と呼びたいグループの)爆笑のつぼをツンツンしまくる「おもしろいおねえさん」として知られるようになったのです。

旧世代の業界人も注目し、上品な笑いで知られる長寿テレビ番組、”Grand Journal” から出演しないかと声がかかりました。残念ながらレギュラーとして番組に残り続けることはできませんでしたが、ネットとは縁の薄い幅広い層にも認知されたナウェルは、更に活動の場を広げています。一度は降りたスタンダップ・コメディの舞台にも積極的に立ち、単独の公演だけでなく同じ志を持つ同世代のコメディエンヌ達とお笑いガールズグループ、Jamel Girls を結成、精力的に活動を行ってもいます。だまっていればいいオンナ、でもある彼女。英語に不自由しないし、ひょっとしたらそのうちアメリカの老舗お笑い番組 ”Saturday Night Live” のコメディ・スケッチにひょっこり顔を出していたりするかもしれません。

これがファレル・ウィリアムスへのマダニ流 Answer Song
“Tu Kiffes La Vie”
www.youtube.com/watch?v=6VYubLKaREY

ダサい男女が繰り広げるくすぐりが散りばめられているものの、いたってダンサブルなクリップ。音的にもエスニックなスパイスを利かせていて、ファレルのオリジナルクリップが持ついい意味でのひりひりした緊張感がほぐれ、見た人みんなが笑顔になる仕上がりになっています。

 マダニが作る十数秒のコミック・スケッチ、INSTAWELLはこんな感じ。
www.youtube.com/watch?v=mF1ef7GWFyo

ステージでのマダニ。しゃべくりが彼女流のヒップホップ・パフォーマンス。
www.youtube.com/watch?v=LVhw0YKiJsE

 

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。