フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

“Le Week-End”(邦題:ウィークエンドはパリで)

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世界中の人をひきつけて止まないパリ。この街を訪れる人をテーマにした映画も数知れず、硬軟甘辛旧作新作いろいろ取り揃えられています。この映画もその一つ。ラベルを貼るなら「珍道中物」になるでしょうか。

ウィークエンドはパリで [DVD]旅する人は、いずれも教職にあるイギリス人の初老のカップル、ニックとメグ。結婚30周年の記念に、新婚旅行先だったパリへやってきたのです―人生の節目にささやかながら楽しいひとときを過ごすために。が、昔をしのんで選んだモンマルトルの「相応なホテル」の部屋のあまりの小ささにメグがキレた瞬間から、脱線が始まります。タクシーを飛ばし目に留まったとても立派なホテル―ホテル プラザ アテネ!―で唯一空いていた部屋、イギリスの首相も滞在した最高級スウィートに、浴室のリフォームに貯めていた虎の子を使って泊まると決めた時から二人の旅は思いもよらないところへ転がってゆくのです。

もちろん、ハリウッド製映画のような派手な展開はありません。見かけも財布もぱっとしない、体力だってそれほどない二人の脱線には限度があります(それでもPG12の指定を受けるぐらいの、コドモはもちろん大人もマネしちゃダメなことをやってのけてしまうのですが)。また、旅先で二人きりで向き合える時間が持てたおかげで、普段生活に追われ蓋をしていた重たいあれこれが噴出。仕事のこと、旅行先にまで電話してくる親離れしない子供のこと、そもそも二人に今後があるのかどうか・・・本音が飛び出し落ち込んだり、険悪な空気になったりもするのです。

それでも、パリに足を踏み入れてから二人は見る見るうちにほどけてゆきます。見ているこちらも愉快になるほどに。昼下がり、生まれてこのかた口に含んだものの中で一番ステキなものを味わって陶然としたり、本屋で大人買いして(クレジットカードはこういう時のためにある!)豪華過ぎる部屋を居心地良くデコレートしてみたり、ハメはどんどんはずされてゆき、あげくのはてはロベール・ドアノーの有名な写真「恋人達のキス」を無意識に再現するところまでいっちゃう。旅先でついはしゃいじゃった経験はどなたもお持ちかとは思いますが、アカの他人はつい冷ややかに見てしまうこの旅にある人の高揚感をうまくすくいとっているのが、この映画の魅力かもしれません。回りが見えなくなる程のおバカさんにはなれないものの、つかのまの乱痴気を楽しむ二人はとても楽しそう。女心をくすぐる誘惑も待ち構えていたりして、スリリングだったりもします。

また、パリが舞台のフランス産映画ではみれない、旅行者の視点から街が描かれているのもうれしい。プラザ アテネのバルコニーからミニバーのシャンパン片手に見るエッフェル塔の眺めも結構ですが、パリ市民には当たり前の光景もストレンジャーにはとてもわくわくするものです。例えば、決まった予算の枠で当たりのレストランを見つけようと一軒一軒見て歩く場面。真剣に店定めする二人の視線と同じ感覚で店の外観が捉えられていて、こちらもその気になって画面をにらんでしまいます。

珍道中にアクセントを添えるのが、ニックのケンブリッジ大での悪友だったアメリカ人、モーガン。パリで2度目の優雅でリッチな新婚生活をエンジョイしているこのスノッブ、悪意なき無神経ぶりとチャーミングな空っぽさでカップルだけでなく観客もきりきり舞いさせてくれます。演じるのはハリウッド俳優ジェフ・ゴールドブラム。笑っちゃうほどのトンデモ男をユーモアたっぷりに見せてくれます(メゾン・ド・ショコラの大きなショッピングバッグを片手に突然登場するところからおかしい)。

映画の終わり、ある理由からパリから出る事ができなくなって、二人は昔ながらのカフェの片隅に籠城せざるをえなくなります。そんな二人が戯れにやってのけるのは、ホテルの部屋で練習した、ゴダールの映画『はなればなれに』のマディソン・ダンス。フィルムの中の明日知らずな若者たちならいざしらず、いい大人の現実逃避とも言われかねないところですが、いささかくたびれた二人が堂々と踊る姿はばかばかしくも味わい深い。回りの目も意識せず、気負わずひょうひょうと、これがほんとうの“ケセラセラ”とでも言いたげに。たどりつけるのがこの境地なら、年を重ねるのも悪くないな、と思うのです。

ずいぶんスパイスのきいた映画だった、とぼんやりエンドロールを眺めていたら、ハニフ・クレイシの名前を見つけました。脚本担当としてクレジットされています。なるほどなるほど。出世作である『マイ・ビューティフル・ランドレット』がまた見たくなりました(大御所になる前のやんちゃなダニエル・デイ・ルイスも、ね)。

ウィークエンドはパリで [DVD]
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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。