フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

黒カナリアの映画時評

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今回ご紹介するのは、ウェス・アンダーソン監督の「グランドブタペストホテル The Grand Budapest Hotel 」、インドの新鋭リテーシュ・バトラが監督・脚本の「めぐり逢わせの​お弁当 The Lunch Box 」、シルヴァン・ショメ監督作品にして 「アメリ」のプロデューサーの最新作「僕を探して ATTILA MARCEL 」、そしてドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、ジェイク・ギレンホール主演「複製された男 Enemy 」の4本です。まだ映画館で上映中ですので、参考にしてみてください。

「グランドブタペストホテル」

パステルカラーの美味しそうなホテルとそこに集うおかしな人々が愛おしくていつまでも見ていたくなる。

一人ひとりが主役級の俳優をたったワンシーンだけ、しかも実ににくい形で登場させたりとなんとも贅沢な造りの映画である。

語り手の若き日の作家にジュード・ロウ。老けてからはトム・ウィルキンソン。タフな脱獄犯を演じるハーヴゥイ・カイテルに将校のエドワード・ノートン。秘密のネットワークで危機を救うコンシェルジュ仲間にビル・マーレイ。不気味な殺し屋はノーメイクでも怖いウィレム・デフォー。他にも多数。

え、こんなところにこんな人がと思わせるつつ、そこはみな達者な俳優陣、しっかり楽しませてくれる。

しかしなんといっても圧巻はレイフ・ファインズ演じるホテルのコンシェルジュ。グスタフに酔えばいい。きりりとパープルの制服に身を包み、仕上げに香水を一振り。ホテルの隅から隅まで目を光らせ、リッチな老女に甘い言葉を囁いては虜にする。どこまでも気障で小うるさい彼にさんざん振り回されても鼻につかないのは、実はセンチメンタルで人間愛に満ちた心優しき男だからである。

エピソードごとに区切られた展開も紙芝居を見るようで楽しく、あっという間に時は過ぎる。外の暑さを忘れてしばし夢の時間へといざなってくれる一本。

■「グランド・ブダペスト・ホテル The Grand Budapest Hotel 」予告編

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「巡り合わせのお弁当」

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 インド映画にはちょっと抵抗があった。濃くて暑苦しい顔の人々が出て来て、音楽はノンストップで、なぜかみんなで踊りだすーというイメージがあったからだ。そのため今まで見たことがなかった。

しかしこの作品は違う。愛情を取り戻そうと、夫のために丹精込めたお弁当が間違って届くと言う設定こそインド特有だが、不仲に悩む夫婦や、妻を失い仕事も退職に近づき、孤独にさいなまれる男といった普遍的なテーマを、弁当を作った主婦イラと、弁当を食べた男サージャンとの交流を通して、静かに、ユーモアを交えて描いている。

届いたお弁当をいちいちサージャンが嗅ぐのも笑えるし、イラと近所のおばさんとのスパイスを通したやりとりもほほえましい。

なんといっても後継に雇われた調子のいい若者シェイクがいい。どこまでも調子よく、小ずるいが、突然明言を吐いたりと憎めない男。

最初は迷惑がって遠ざけていたサージャンもいつのまにか相手のペースに巻き込まれる。

お弁当にいれた手紙のやりとりで心のうちを打ち明けあったイラとサージャンだが、サージャンの老いが恋の進展に影を落とす。また経済発展で死んでも立ったまま埋葬されるという今日のインド。墓石が投棄される日本も他人事ではない。

結婚とはなんなのか。女が置かれている立場とはーイラの母と長く患っていた父との関係、投身自殺した母娘のエピソードも然り。暑く乾いたインドの風景を通して現代社会の抱えた問題が見て取れる秀作。

シェイクの明言―間違った電車に乗っても目的地に辿りつけるのかーそのこたえが気になる一本。

■「めぐり逢わせの​お弁当 The Lunch Box 」予告編

僕を探しに

 期待していただけにちょっと残念だった。なんというか、全てが少しづつ甘過ぎて、あざといのだ。あの「アメリ」のプロデューサーという触れ込みながら主役が何もしない32歳童貞というのがまずいのかもしれない。元のタイトルは主人公ポールの謎の死を遂げた父、アッティラ・マルセル(・・・・)

アメリも外界に臆病な女子だったけれど彼女は色々近所の人々に小さないたずらをしかけたり自ら事を起こすのだが、両親の突然の死を目撃して以来口を利かないポールは何もしないのだ。本当に。

ただマダム・プルースト(・・・・・)が差し出す不思議なハーブティを飲んで両親の思い出を取り戻すだけ。それだけだ。

ポールの失われた記憶をひも解く音楽は楽しいし、思い出の中の両親の姿もかなりユニークで良い。おばさん姉妹の造形もブラックで笑える。ただお茶を飲んでは過去の思い出をひとつひとつ取り戻すだけで、ほんとに何もしない。女の子に迫られても自分はただ隣に座っているだけ。口がきけなくなったとはいえ、何かないか。

マダム・プルーストの人物像やその消え方、管理人と痴呆の母の扱いもなんだか笑うに笑えない。処理が全て甘くて雑すぎる。

うーん。まあどうだろう。見ても損はしないけど、アメリを期待するのは違うかな。

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■「ぼくを探しに ATTILA MARCEL 」予告編

複製された男

映画に遅れてくる人をいつも迷惑な、と軽蔑していたのに自分がやってしまうとは。しかもワンシーンも見逃してはいけない作品で、である。焦って手にしたアイスコーヒーもこぼしかけながら入った映画館で、でもすぐに作品に引き込まれてしまった。返す返すも冒頭10分間が気になるのでまた行ってしまいそうだ。

設定自体はさほど目新しいものではない。いい仕事にいい住まい、美人の彼女もいるのになぜか人生に疲れた風情を漂わせる歴史教師アダムが、映画にちらっと出ていた役者アンソニーが自分に瓜二つなのに気がついてから、自分の存在自体が不確かで不可解なものになって行くというもの。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品に共通するテーマ、自己の存在の揺らぎが、本作品では強烈にグラグラされる。

かつてはブルーアイズがきらきらしてハスキーの子犬のようだったジェイクも中年に入りかけた男の疲れた風情を、袖まくりしたワイシャツ、いいかげんに結んだタイ、太ってはいないが締まりのない体に漂わせる。

ちらほら見え隠れする蜘蛛のイメージとアンソニーの身重の妻。これがまた曲者である。

大体見かけが似てるだけでなく女の趣味も似ているのか、どちらの彼女もスレンダーなブロンド美人。それに刺激されたのか、「妻を動揺させたのだから、お前の彼女とやらせろ」と迫るアンソニー。全く男のすることと言えば、中二か!と笑ってしまう。  むろんそれは一番自分に近しい人に違いに気づいて欲しいという自我が言わせる本能の叫びかもしれない。

どちらがオリジナルで複製なのか。それとも実は世界には一杯コピーがいて、それを選んでいるのは女の方なのでは―と思わせる怖い一本。迷宮感覚を楽しめます。

「複製された男 Enemy 」予告編

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