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第64回カンヌ映画祭

text by / category : 映画

5月11日に開幕した第64回カンヌ映画祭は22日に最終日をむかえ、各賞が発表されました。今回の審査委員長は俳優のロバート・デ・ニーロ。審査員には映画監督のオリヴィエ・アサイヤス、ジョニー・トーのほかユマ・サーマン、ジュード・ロウなどハリウッド・スターが加わり、いつにもまして華やかな雰囲気でした。審査員は非常に和気あいあいとした感じで、授賞式は終始和やかな空気が流れていました。大変遅くなりましたがコンペティション部門の主な結果は以下にお伝えします。

カメラ・ドール(新人監督賞):Las Acacias(監督:パブロ・ジョルジェッリ) 審査員賞: Polisse(ポリス 監督:マイウェン・ル・ベスコ) 最優秀男優賞 : ジャン・デュジャルダン(作品:The Artist/ジ・アーティスト  監督:ミシェル・アザナヴィシウス) 最優秀女優賞:キルスティン・ダンスト(作品:Melancholia/メランコリア 監督:ラース・フォン・トリアー) 最優秀脚本賞:ジョゼフ・シダー(作品:Hearat Shulayim/フットノート  監督同じ) 最優秀監督賞:ニコラス・ウィンディング・レフン(作品:Drive/ドライブ) グラン・プリ:Bir Zamanlar Anadolu’da /昔々、アナトリアで 監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン Le Gamin Au Vélo/自転車に乗った少年 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ パルム・ドール:The Tree Of Life/ツリー・オブ・ライフ 監督:テレンス・マリック

 

大方の予想通り、テレンス・マリック監督の6年ぶりの作品『ツリー・オブ・ライフ』が最高賞に選ばれました。1950年代のアメリカを舞台に厳しい父親に育てられた少年の成長物語で、父親役にブラッド・ピット、成長した息子役にショーン・ペンという興味深いキャスティングです。次点のグラン・プリはトルコのヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督とベルギーのダルデンヌ兄弟というカンヌ常連の作品が受賞。『昔々・・』は雄大な自然に暮らす人々の生活の物語で、ダークトーンの色調にドラマティックなライティングが印象的な映像でした。『自転車・・』は、自分を施設に預けた父親を探す少年とたまたま出会った美容師のサマンタとの交流を描いたもので、サマンタ役を演じるのはフランス女優のセシル・ドゥ・ラ・フランス。 会場がまず盛り上がったのは『ポリス』が審査員賞を獲得したときです。マイウェン・ル・ベスコ監督はもともと子役出身の女優で、リュック・ベッソン監督の映画『レオン』のマチルダのモデルだとも言われています。真っ赤なドレスをまとったマイウェンが現れると会場は大いに沸き、彼女も盛大な拍手に感極まっている様子でしたが、ルーズなドレスがいつ肩からずり落ちるかと私はヒヤヒヤして見てました・・ 作品はBPM(未成年保護係)の刑事たちの日常をドキュメンタリー風に描いたものだそうで、女優でもある監督は出演もしています。

男優賞と女優賞の発表にも喝采がおこりました。満面の笑みをたたえて舞台に登場した男優賞のジャン・デュジャルダンは、フランス俳優ながらジーン・ケリーを思わせる風貌で、出演した『ジ・アーティスト』が描く20年代のハリウッドの雰囲気にぴったり。一方女優賞はラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』主演のキルスティン・ダンスト。問題発言をした監督が映画祭から追放されるなど、またしても物議を醸した作品ですが、俳優の演技は正当に評価された、ということでしょうか。主人公ジュスティーヌが姉夫婦の家で結婚パーティーを開いていたとき、メランコリアという名の惑星が地球に向かってくる・・というSF仕立ての映画で、終末感に満ちた重苦しくも斬新な映像に非常にそそられました。シャルロット・ゲンズブール、キーファー・サザーランド、ジョン・ハート、シャーロット・ランプリング、ウド・キアーというキャスティングもすごい。問題を起こすのは作品の中だけにしてもらいたいですね・・

日本から出品された河瀬直美監督と三池崇史監督の2作品は、どちらも控えめな演出が、今回いつになく「派手好み」だった審査に合わなかったのでしょうか、惜しくも賞を逃しました。方や奈良県の飛鳥地方の自然を背景に展開される男女の物語、方や3D時代劇と方向性は違うものの、「日本」を多分に意識した作品です。河瀬映画の詩的で繊細な映像や三池作品に主演した市川海老蔵の存在感など上映後に好意的な感想を得ていたものの、プレスからはあまり関心を抱かれなかったようです。

河瀬監督はカンヌで東日本大震災の被災地に捧げるオムニバス映画制作を発表しましたが、すでに去年のパルム・ドール受賞者アピチャッポン・ウィーラセタクン監督のほか、中国のジャ・ジャンクー監督、そしてスペインのビクトル・エリセ監督らが参加を表明しています。あの「超」がつくほど寡作なエリセ監督の協力が得られるなんて、考えただけで涙が出てきます・・

その他気になる作品をいくつか。アキ・カウリスマキ監督の『ル・アーヴル』はタイトル通りフランスの港町を舞台に、もと有名作家の貧しい男とアフリカから密航してきた少年との友情の物語。チャップリンの作品を彷彿とさせる映画だそうで、こちらも公開が待ち遠しい。映画祭ではエキュメニック賞審査員特別賞、国際批評家連盟賞、さらにはパルム・ドッグ審査員特別賞(カウリスマキ作品に出てくる犬はみんな魅力的ですね)を受賞しました。

イタリアのナンニ・モレッティ監督の 『アベームス・パーパム Habemus Papam 』は、コンクラーベで選ばれたもののいやいや就任したローマ教皇の話で、教皇を演じるのはミッシェル・ピコリ。コメディ仕立てとはいえ、よくイタリアがこういう映画を作るのを許可したものだなあと思います。監督も精神分析学者の役で出演。

リン・ラムジー監督の『ケヴィンの話をしなくては We Need to Talk about Kevin』は犯罪をおかしたティーンエイジャーの息子と母親の複雑な関係を扱った作品。母親を演じたティルダ・スウィントンはカンヌに颯爽と登場。いつもながらの個性的なファッションセンスと揺るぎない演技力で会場の人気を博していました。音楽を担当するのはレディオヘッドのジョニー・グリーンウッド。 オーストラリアから出品されたジュリア・リー監督の『スリーピング・ビューティー』。タイトルといい、川端康成の小説『眠れる美女』から構想を得た映画に見えますが、言及はされていないようです。プロデューサーはジェーン・カンピオン。特異な状況に置かれた女性の心理を描くのがうまいカンピオン監督が制作したこの作品に興味がわきます。

 

最後にコンペ外の作品から。「ある視点」部門に出品されたガス・ヴァン・サントの『永遠の僕たち Restless』は、監督がかつてパルム・ドールを受賞した『エレファント』や『パラノイド・パーク』に通ずる空気を感じました。ガン末期の少女と両親を事故で亡くし存在意義を失った少年との恋愛の物語。『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカと故デニス・ホッパーの息子ヘンリー・ホッパー(お父さんに似てる!)の共演です。このほか少年の親友として登場する「カミカゼ特攻隊の幽霊」役に加瀬亮が出演。今年の年末公開予定だそうですから、今から待ち遠しいですね。 今年は映画が観られる、というありがたさを噛みしめながら映画祭の情報や映像をチェックしていました。映画祭に出品された興味深い映画の数々が日本でも上映され、鑑賞するよろこびを多くの人が得られるよう祈っています。



posted date: 2011/Jun/04 / category: 映画

関西各地を転々とする非常勤講師。もともと実験的な20世紀小説が好きだが、最近は19世紀あたりの、特にイギリス文学と明治・大正の日本文学ばかり読んでいる。
とはいうものの、読書はもっぱら通勤電車の中で、家では映画・音楽・ネット三昧の日々。extra ordinary #2 ではフランス関係の映画・音楽もしくは小説についての身勝手な感想をミーハー心丸出しでお届けします。

このほかにもブログを書いています。
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