フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

FRENCH BLOOM NET 年末企画(1) 2012年のベスト映画

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今年も始まりましたの年末企画。第一弾は FRENCH BLOOM NET のライターが選んだ今年のベスト映画(フランス映画、非フランス映画をとりまぜて)。ちなみにフランスを代表する映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ」が選んだ「2012年の映画ベスト10」の1位は何とレオス・カラックス監督の「ホーリー・モーターズ(原題) / Holy Motors」でした。そして、2位:「コズモポリス(原題) / Cosmopolis」(デヴィッド・クローネンバーグ監督)、3位:「ヴァージニア/ Virginia」(フランシス・フォード・コッポラ監督)と続きました。9位には不知火検校さんも選んだ「ファウスト」(アレクサンドル・ソクーロフ監督)が入っていました。bit.ly/TvpvWT

不知火検校
1.クロード・シャブロル連続上映
2.「ファウスト」 アレクサンドル・ソクーロフ監督
3.「バットマン・ライジング」 クリストファー・ノーラン監督
ファウスト [DVD]
■今年は意欲的な作品、企画上映が多かったと思います。特に1によってシャブロルの晩年の作品がほぼ全て観ることが出来たことは画期的なことでした。2は異様な映像の迫力に打ちのめされる作品です。3はノーランほどの天才でもこのシリーズを完結させるのは至難の業だったということを示した貴重な記録です。その他、「おおかみこどもの雨と雪」(細田守)、「少年と自転車」(ダルデンヌ兄弟)、「汽車は再び故郷へ」(O・イオセリアー二)、「メランコリア」(L・V・トリアー)、「人生の特等席」(R・ロレンツ)などが印象に残りました。

cyberbloom 「最強のふたり」 エリック・トレダノ監督 Intouchables
■2001年に「アメリ」がフランス映画の国内観客動員数の記録を打ち立てたが、今年その「アメリ」越えを成し遂げた映画に言及せざるを得ないだろう。「最強のふたり Intouchables 」は映画館で見たのではなく、知人がわざわざフランスから取り寄せたDVDを貸してもらった。何よりも ’C’est une turie!’ (キラーチューン)と、EW&F をかけて踊り出すオマール・シーがクールだった(てっきり U2 だと思っていたサントラの曲が Vib Gyor というイギリスの5人組バンドの曲だということもわかった)。誰かが「フィリップは障害を、ドリスは貧しさを他人から哀れんでほしくない。人間の尊厳を接点にしているのがうまい」と書いていたが、むしろ二人の関係がうまく行ったのはフィリップが自分の無力さをありのままにさらけだしたからだ。生殺与奪権を委ねた相手に一瞬でも見下した態度はとれないのだ。信頼とかけ引きは対極にあるものと思われがちだが、これらは同じことの両面なのだ。一方で顧客のどんなニーズにも臨機応変に対応することを求められるだけでなく、個人のプライベートな感情までが動員される「感情労働」が蔓延している今日、「最強のふたり」は介護を超えた友情の物語というより、究極の介護映画なのではないのだろうか、とふと思った。この介護サービスには限界がない。

黒カナリア
「私が、生きる肌」 ペドロ・アルモドバル監督
私が、生きる肌 [DVD]■色々な意味でぶっとんでいた一本。もう画面全体からアルモドバルが全開で見終わった後に「えええ?!」ともう一度最初から見直したくなる一本。トランスジェンダーに、同性愛、近親相姦、死体愛、視姦、強姦とてんこ盛り。禁断の人体実験に臨む博士に、ここのところどうしたのもう枯れちゃったの?って感じだったバンデラスが、渋さを増した色気も悪い男度もむんむんで臨む。見事な肢体を惜しげもなくさらすエレナ・アナヤの美しさ。しかし実はその美こそが狂気と罪と復讐が創り上げたものだった…男性陣が見ると初めこそエレナの美しさに垂涎ものでしょうが、次第に感じたことのない底知れぬ恐怖を感じるかも…
「ダークナイト・ライジング」 クリストファー・ノーラン監督
ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)■シリーズもの完結編より一本。バットマン・ビギンズで原点に立ち返って、派手さや娯楽性を排して、ダークナイトではほぼ哲学的な域まで人間そのものの善と悪、光と闇に向かいあったシリーズの最終編。ダークナイトにおけるジョーカーのような、理解不能ゆえに恐ろしかった敵は登場しないが、バットマン自身の、自分の存在に対する疑問、不信と敗北。そしてそこからの再生が描かれる。今回の敵ベインの、見ているほうまで痛みを感じるようなずしりと重いこぶしの連打。あえなく崩れおれるバットマン。禁欲的なーという形容詞がぴったりくるクリスチャン・ベイルのキャラが生きる、苦しみぬくヒーロー。しかし「マスクをつけるもの」の存在は、新たな希望となって受け継がれる。シリーズ中最高にセクシーでキレのあるキャットウーマンを演じたアン・ハサウェイも見もの。老いた執事の見る幻想(正夢か?)が、悲しくも美しいラストシーンに涙、涙。ただ原子力の威力の描き方は??
「ジェーン・エア」 キャリー・ジョージ・フクナガ監督 ジェーン・エア [DVD]
■文芸作品より一本。何度となく映画化されたシャーロット・ブロンテの名作。そのなかで最も新鮮でみずみずしいジェーンとロチェスターの組み合わせ。不美人という設定にはちょっと美人過ぎるミア・ワシコウスカ演じるジェーンだが、一見傲慢かつ繊細にしてぞくりとするほどセクシーなロチェスターを演じた、マイケル・ファスベンダーとの間に漂う化学反応が素晴らしい。ジェーンの乱れる心をそのままに描いた冒頭の揺れる画面にはちょっと酔うが、そのまま物語に引き込まれる。不自由な時代に誇り高く自由に生きようとする、現代の女性にも通じるジェーンを見るだけでも価値がある一本。

cespetitsriens
「ドラゴン・タトゥーの女」 デヴィッド・フィンチャー監督
ドラゴン・タトゥーの女 [DVD]■レディースデイにふらっと映画館に行き、スタイリッシュなポスターに惹かれてなんとなく選び、前知識も期待もなく、鑑賞。何から何まで好みで驚愕。こんなに萌えポイントを突かれる映画に出会えて嬉しいの一言です。とにかく主役ふたりの役者さんが素晴らしくクールで格好良い。謎解きや犯人像は正直凡庸に感じますが、洗練された映像美に魅了されます。後にスウェーデン版三部作も観てそれなりに楽しめましたが、リスベット役はハリウッド版の方が断然好み。脆そうで強いリスベットにときめきます。ハリウッド版の続編製作は難航しているようですが、期待して待ちたいと思います。
「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」 ガイ・リッチー監督 シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
■前作はテレビ放送で見てしまったので、今度こそはと映画館に足を運んで大正解。派手なアクションシーンを大画面で存分に楽しめました。近頃はどんなアクションシーンを見てもあまり何も感じなくなってしまいましたが、この作品はとにかくセンスの塊、見せ方が秀逸。血沸き肉躍る大活劇、文句なしの娯楽作です。もちろん主役ふたりのユーモアあふれるやりとりも楽しい。女優陣が魅力に乏しいのが残念だけど、それはそれでいいのかな。

exquise
「BIUTIFUL ビューティフル」 アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督
BIUTIFUL ビューティフル [DVD]■この監督の作品はこれまで苦手なほうだったのだけれど、この作品は重たい現実を扱いながら、幻想的な場面が織り込まれた美しい映画となっていて、激しく心を 揺さぶられた。ハビエル・バルデムの繊細な演技もすばらしい。アキ・カウリスマキの「ル・アーヴルの靴みがき」と迷ったが結局こちらをベストにしました (2010年の作品ですが…)。

bird dog
■今年はいろいろ事情があって、とくに後半6ヶ月は1本も映画館で見ていません。イ・チャンドン監督の『ポエトリー』は良かったのですが、彼の今までの作品と較べると、少し落ちる気がしました。『第4の革命』という再生エネルギーをめぐるドキュメンタリーは、全体としてはやや退屈でしたが、イブラヒム・トゴラというマリの建設業者の知性の美しさには驚嘆しました。

里別当 「さよなら、さよなら、さよなら」 片岡大樹監督
■舞台はある住宅街のベンチ。老人(常男)の毎朝の散歩コース、そこに仕事を終えた水商売勤めの女(香織)が通りかかり何気ない会話を交わす。二人は次第に心を通わせていく。見所は恋人に金を盗られた香織の為に、常男がそいつの家に忍び込みお金を奪い返すシーン。帰宅した男に見つかり彼は咄嗟に認知症のふりをして難を逃れる。監督の才能はこの常男の即興性(に見える程の)の演技に集約される。人間の身体が時空のひび割れのはざ間で瞬間にして瑞々しさを帯びる。彼の演出とは、対象からカメラを一歩引く事で身体がパロル以上に饒舌になること。ブレッソンの演出を思い起こす。フランスとも商業映画とも関係ないのですが、11月に第17回神戸100年映画祭で上映された若き監督の一本。

Mélusine 「故郷へ」(原題:La terre outragée) ミハル・ボガニム監督
■「放射能の音が聞こえる…」かつての美しい街を見おろす小高い丘の上でそう呟く彼女を、ツアーの客たちは怪訝そうな顔で見る。終止ハリウッド的ダイナミックな見せ場とは無縁の本作は、その静かさゆえによりいっそう目の前にある現実を重く突きつけてくる。当局が押し隠そうとした大きすぎる秘密を抱えきれずに正気を失ってしまった関係者、もう元に戻ることはないと知っていても故郷の土地と人との繋がりを求め続けるかつての住人、時が止まったままの人間たちを尻目にふたたび芽を吹き花や実をつける自然のたくましさ、立ち入り制限区域内で“安全に”暮らすために残された家屋を不法占拠しにやってくる難民たち。人間にとっての「ホーム」(物理的な「家」に限らず心が帰る場所としての…)は、いったいどこにあるのだろう?そして、奪われて初めてそれが「ホーム」であったと気づいた場合、そのあとの時間をどう生きていくのだろう?身近な人に、そして自分にあてはめて考えずにはいられない。母方にウクライナと遠いつながりがあるというボガニム監督は、イスラエル出身の1971年生まれ。幼少期にフランスに移住した彼女は、チェルノブイリ原発事故を経験したひとびとへの綿密なリサーチによって書き上げた脚本に、自身が経験した戦争と被災の実感も盛り込んだという。立ち入り制限区域内でフィクション映画が撮られたのは、チェルノブイリの原発事故から実に25年もの歳月を経て初めてのこと。事故によって住民が強いられた犠牲を描いた本作は、当局にネガティヴなイメージを与えるとして制限区域内への立ち入り申請に対して許可がおりず、監督はダミーの脚本を作成してなんとか内部での撮影にこぎつけた。そのバイタリティ、情熱に拍手。これはぜったいに観とかないと、の一作っしょ。有無を言わせぬ堂々の2012年ベスト映画です。kokyouyo.ayapro.ne.jp
「ミステリーズ 運命のリスボン」(原題: Mistérios de Lisboa) ラウル・ルイス監督
■19世紀のポルトガル人作家の Camilo Castelo Branco の同名原作の翻案。19世紀のポルトガル、フランス、イタリア、ブラジルを舞台に、父親を知らない孤児と彼を優しく見守る神父、ふたりの現在と過去に関わる人々とさらにそれを取り巻く人々がミステリアスに絡み繋がりあう。淡々とした作品ですが、見応え十分。近年、Twitter や SNS で偶然知りあったひとと思いがけず共通の知り合いがいて驚いたり、嬉しくなったり、ぎくっとすることが多いのだけれど、よくもわるくも「友だちの友だちは皆友だち」って本当なのかも…なんてふと考えさせられる。そして「昨日の友は今日の敵」とも。2011年9月に70歳でこの世を去った監督は、撮影が始まって間もなく病気が発覚し大手術を受けることに。命のために撮影を中止するようにという医師をふりきって本作を完成させた…というのを聞くと、約4時間半の長さも「なんのその」と思えてしまう。www.alcine-terran.com/mysteries/
「最初の人間」(原題:Le dernier homme) ジャンニ・アメリオ監督

■2013年に生誕100年を迎えるアルベール・カミュの未完の自伝的遺作を映画化。1957年夏。フランスによるアルジェリアの植民地化を巡って、アルジェリアでは保守派と革新派が激しく火花を散らしていた。母を訪ねて故郷アルジェリアの地を踏んだ小説家のジャックは、この地で過した少年時代の出来事を回想する。恩師やかつての級友との再会を通して、いま人々の和解と共存のために何ができるのかを自分自身に問い、彼はある行動に出る…。「運命」とか「天命」とか非科学的なことを言うなと怒られそうだけれど、こういう作品をカミュが死の直前に書いていたことに驚き、何か特別な意味を感じずにはいられない。それから、ジャックの少年時代を演じた子役が非常にいい。子供時代に誰もが感じるであろう自分の無力さと世の中の不条理さを思い出して切なくなった。www.zaziefilms.com/ningen/
「マリー・アントワネットに別れをつげて」(原題:Les adieux à la reine ) ブノワ・ジャコー監督
■シャンタル・トマの小説処女作にしてフェミナ賞受賞のベストセラー『王妃に別れをつげて』(原題同じ)の映画化。ヴェルサイユ宮殿におけるフランス革命前後3日間の様子を、王妃マリー・アントワネットに恋にも似た熱烈な憧れを抱く読書係シドニーの視点から描いた斬新な作品。インタビューで「エロティシズムは僕にとって大事なテーマ」と語っていたジャコー監督は、原作では中年女性の設定だった読書係シドニーをうら若い乙女に置き換え、マリー・アントワネットとポリニャック夫人とシドニーの(三角関係といっていい)スレス〜レのやりとりを、実に緻密な職人芸でなまめかしくかつ品よく撮り上げている。原作者のトマは18世紀の専門家、またジャコー監督は「好きな時代は17世紀と18世紀」というだけあり、ヴェルサイユの煌びやかさ面(ゴージャスなドレス!キラキラの鏡の間!)のみならず、ヴェルサイユの住人の大半が暮らしていた豪華さからはほど遠い棟の内部、悪臭やネズミの死骸といった日常的な悩み、明かりの乏しい夜の闇…などなど「きっとこうだったんだろうなぁ、いや絶対そう」と納得してしまうこと請け合いの確かな時代考証で当時の生活事情をばっちり描いている。渋めトーンの作品ながら楽しみ方いろいろで、何度観てもおもしろい。myqueen.gaga.ne.jp

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当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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