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See you soon, Carine! カリーヌ・ロワトフェルドが Paris Vogue を去る日

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「カリーヌ・ロワトフェルドが Paris Vogue 誌の編集長を辞める」— 昨年12月、クリスマス前のにぎにぎしい時期に飛び込んできたヘッドラインに、目を疑いました。90周年記念の絢爛たる仮面舞踏会も成功させ、クリスマスには何をするのかと次の一手を待っていたというのに。

業界の人々だけでなく、カリーヌの身近で働いていたスタッフでさえも寝耳に水だったようです。発行元であるコンデナスト社がアナウンスする前にこのことを知っていたのは、リカルド・ティッシ、エディ・スリマン、アズディン・アライア、アルベール・エルバスといった親しい友人だけだったそうです。

辞職の理由について、インターネットではあれこれもっともらしい噂が流れています(ウィメンズラインを起ち上げる盟友トム・フォードともう一度タッグを組むため、最新号の内容がLVMHのトップの逆鱗にふれたせい、などなど)。しかし、どれも噂でしかないようです。カリーヌが最新インタビューで語っているように、「10年やった。もう十分。」というのが本当のところではないでしょうか。

痩せっぽち、ストレートヘアに、強い印象のアイメイク。唇と脚は基本裸のまま(女性版イギー・ポップと呼ばれたりもする)。そして口元にはいつも微笑み。スタッフを従え、彼女ならではの人目を引く着こなしで颯爽と現れるカリーヌは、一雑誌の編集長という立場を超えた存在でした。Tastemaker’s tastemaker と呼ばれ、何を着てくるかが常に話題となり、フラッシュを浴びていたあの人がショーのフロントロウに姿を見せなくなるなんて! 個人的には、カリーヌならではの誌面が見れなくなる事がとても残念です。大枚はたいて Paris Vogue を手に入れてきたのは、ここにしかない「自由」があったから。プロモーションにカタログめいた商品写真、シーン別着回しといったお役立ち情報にまみれた普通のファッション誌に食傷気味の身には、「私は私」を貫いて己の信じるクールネス、美しさを追求する Paris Vogue にはまさに解放区でした。ここまでやるか、という大胆な試みにドキドキさせられたものです。特に写真がすばらしかった。編集長の子供の名付け親でもあるマリオ・テスティーノを始め、有名写真家がこぎれいなファッション写真の枠をこえた作品をばんばん発表していました。

Paris Vogue Covers 1920-2009カリーヌの仕事の中で一番好きだったのが、ブルース・ウェーバーと組んで丸々一冊を作ったプロジェクト。このブログでもご紹介しましたが、プロンドのトップモデルと、黒い肌にあごひげを生やしたトランスベスタイトが、ミニのドレスを着て心底楽しげに笑っている表紙の写真は、まじりっけなしの Free Spirit そのものでした。世の話題になってやろうなんて姑息な計算高さとは無縁、「どう、いい感じでしょ?」という気持の素直な現れなのがありありで、とても気持がよかった。

雑誌での一連の大胆な仕事は、「自分はスタイリストである」というカリーヌの自意識のなせる技ではないかと思います。ハイティーンの頃モデルとしてファッション業界入りしてから、雑誌の編集にたずさわることはあっても、常にスタイリストとして仕事をしてきました。特に有名なのは、トム・フォードとともに、沈みかけていた老舗ブランド、グッチを再生させたこと。この大成功により、Paris Vogue のポストがオファーされたようですが、この時の仕事についてカリーヌはこう語っています。「トムは私を女の姿をした自分の片割れとして使った。デザインした服を、私ならどう着るか聞いてくるわけ。私は自分のことにかまけていればよかった。このシャツはどう着よう、どのバッグを選ぶ? ピアスをするならどんなタイプにする? そんなこと、がファッションの写真には大事なのね。シャツの袖をどうロールアップするか、どんな風にバッグを持つか、どうやって脚を組むか…そういった事がとても大きな違いを生むの。」編集長になっても、自分の雑誌のためのスタイリングをこなしてきたカリーヌにとって、ファッションとはつきつめたところ「素晴らしいもの、美しいものを、自分の感性に正直に装う楽しみ」なのかもしれません。

そんなスタンスを持つカリーヌに、Paris Vogue の編集長という肩書きはだんだん重たくなってきたのではないでしょうか。過去にもインタビューで、こう漏らしていました。「世界のファッションはちょっとばかり退屈になっているわね。お金、お金で、ショーに行くと、ハンドバッグをたくさん売りつけようとする空気を感じる。正直、私はハンドバッグが好きじゃない。ハンドバッグは持たないの。ハンドバッグを持った姿って、いいとは思わない。」ファッション雑誌の編集長なのに、そんなこと言っていいんですか!という発言ですが、今回の決断と全く無関係ではないように思います。(対極の存在と比べられてきたアメリカ・ヴォーグの編集長アナ・ウィンターとはそもそも、立ち位置が違う人なのです。世界中で120万部を売り上げる雑誌のトップという責任を負い、ハリウッドやセレブリティ、業界を巧みに仕切り話題と華やかな誌面を作り続けるウィンター女史と、スタイリストとしての自分にこだわり続けるカリーヌとを比べるのはお門ちがいというものでしょう。)

「ファッションとは、服のことじゃない。スタイルなの。」そんなモットーを掲げ、56年間の人生のほとんどをファッションの世界で生きてきたカリーヌ。編集長の職を辞したからといって、ファッションから離れることは決してないと信じています。片腕だったエマニュエル・アルトが後任に決まりましたが、任期が終わる1月末までの編集長カリーヌ・ロワトフェルドの仕事に触れてゆきたいと思います。

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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。