フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

バーバパパとエコロジー

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大学生の頃、初めてフランス語の授業で「講読」したのは、ボードレールでもモーパッサンでもなく、「象のババール」だった。確かに、子供向けの本は概してフランス語が易しい。しかし、野生の象を老婦人が躾けていく過程は、読んでいてあまり楽しいものではなかった。あからさまに植民地主義的な匂いがしたからだ。

それでも、パリに住んでいた頃は、ときどき Sèvres-Babylone 駅近くにある Chantelivre ( bit.ly/IgIT7v )という本屋に立ち寄るのが楽しみだった。ここは Editions des loisirs という出版社の本拠地でもあって、近所の歯医者に通院したときには、毎回絵本を何冊か立ち読みして帰ったものだ。とくに気に入ったのは、Elzbieta の作品で、そのうち戦争をテーマにした傑作『 Fron-Fron et Musette 』は、『あいたかったよ』の邦題で日本語訳も出ている。日本の絵本も、福音館書店のカタログをはじめ多数翻訳されており、とくに安野光雅は人気が高いようだ。 バーバパパのプレゼント (講談社のバーバパパえほん)バーバパパのいえさがし (講談社のバーバパパえほん) では、僕が子供の頃に読んだ絵本に、フランスのものはあったかというと、何よりもまず「バーバパパ」シリーズが思い浮かぶ。最近、もうすぐ3歳になる娘と一緒に旧蔵の『バーバパパ』を久しぶりに読み返して、発見したことがある。それは、このシリーズがやたらとエコロジストであることだ。環境汚染から動物を護るために他の惑星への移住を図る壮大な『バーバパパのはこぶね』や、フクロウの木を守るために一家団結して闘う『バーバパパのしまづくり』などは、その代表例である。 『バーバパパのプレゼント』では、動物好きのバーバズー(Barbidur)がクリスマスプレゼントに南国の鳥たちを貰ったものの、寒さのせいで衰弱していく。そこで発明家のバーバピカリ(Barbibul)が暖房器具を考案する。最初は水力発電機を開発するが、川が凍りついてしまい、使い物にならなくなる。そこで風力・太陽光など、自然エネルギーを利用した発電装置も作ってみるが、いずれもうまくいかない。最後は家族総出で自転車発電まで試みるが、部屋は十分に暖まらず、結局鳥たちを南国に送り返すことにする。エネルギーを作り出す方法よりも、エネルギーを大量に使う必要があるかどうかというところにまで問いを深めたうえでの結論と言える。 動物を本来いる土地から別の土地へと連れてくることへの嫌悪感は、どうやら夜を昼にするような不自然を享受する消費社会への批判と結びついているようである。シリーズ第1作の『おばけのバーバパパ』(おばけ? 土の中で育って、ある日フランソワの家の庭からニュッと出てくるのだけれど)でも、動物園に入れられたバーバパパは檻から抜け出して、園を追放される。『バーバパパのアフリカ行き』では、貨物列車で乗り合わせた動物たちを、大きなトランクに変身して自分のなかに隠し、飛行機でアフリカまで帰してやる。 エコロジーは、動物に関わることにとどまらない。『バーバパパのいえさがし』では、バーバパパ一家が古い家を改築して住み始めた矢先に、集合住宅建設のため立ち退きを迫られる。しかし、団地暮らしに馴染めない彼らは退去し、工場の立ち並ぶ川沿いを川上に向かって歩き続け、とある野原に自分たちの家を建てる。そこに再び解体用のクレーン車がやって来る。バーバパパ一家は溶かしたプラスチックを使ってこれを追い払い、勝利のダンスを踊り出す。1970年代に揺曳していたヒッピー思想が見え隠れする内容だ。また、暴力には暴力で対抗するあたりは、いかにも68年以降のフランスらしい。ちなみに、バーバリブ(Barbotine)の部屋には、アフロヘアで腕を突き上げている彼女のイラストが飾られている。メキシコ五輪陸上男子200mの表彰台で黒い手袋を填めた手を挙げて黒人差別に抗議した、二人のアメリカ人選手を思い出さずにはいられない。いわゆる Black Power Salute の史上最も有名なパフォーマンスだ。 日本でも、空き家は社会の負の財産である。最近は、所有者不明の廃屋を行政代執行で解体できる条例が、各地で施行されている。空き家が増える背景には、もちろん高齢化と人口減少という問題があるが、それ以上に、経済界と政治が新築住宅を奨励し続けたという事実がある。リーマンショックの遠因となったサブプライムローン(準優良層向け貸付)も、本来家を建てることなどできないはずの人たちに貸し付けることで、経済を回そうとしたものだった。『バーバパパのいえさがし』は、「住み替え」というエコロジカルな(そしてノスタルジックな)行為が否定され、新しい家に無理矢理住まされるという不幸への怒りと、それに対抗できたらという想像力豊かな復讐の気分が見られる。 資本主義社会とは、大量のゴミを出す仕組みになっている社会である。バーバパパは、そのようなゴミ=資本主義へのアンチテーゼであり、資源の再利用・再分配を要求する。考えてみれば、ネーミングの由来である綿菓子 barbe à papa (「パパのあごひげ」)は、跡にゴミを残さず口のなかに溶けていく――虫歯は残すかもしれないけれど。エネルギー問題が深刻になる時代に、エコロジー絵本として、「バーバパパ」を読み返してみるのも面白いかもしれない。 □The official Barbapapa web site : www.barbapapa.fr/barbadb/barbapapa.php?lang=FR

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