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フランス語:綴り間違いの代償

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1990 年にアカデミー・フランセーズによって承認されていた綴り字改革が、2016 年の新学期から学校の教科書に採用されることが決まり、フランスで物議を醸していると2月6日の記事で紹介した。しかし結局は従来の綴りも誤りとはされず、ふたつの綴りが残ることになったわけだが、人を雇用する際に、フランス語の綴りがチェックされ、差別化の基準として使われる可能性を危惧する意見もあった。昔ラテン語を知っている人がエリートだったように、オーソドックスな綴りを書けることがエリートの基準になることもありえる。しかし現実はそれどころではないようだ。新旧の2つの綴りの違いどころか、基本的な綴りもきちんと覚えていないフランス人が多い。さらに書くどころか、5人に1人がフランス語を読めないまま学校を卒業すると言うデータもある。以下は、France 2 の特別番組 Orthographe : le prix des fautes – Envoyé Spécial 19 février 2015 (綴り間違いの代償)の内容をまとめたものである。(一方でフランスでは「オートコレクター」は使われていないのだろうか、という疑問が残る)

今や、会社どうしの文書のやりとりのほとんどが文書で行われるようになっているが、その90%に綴りや文法の間違いがある。それが会社にとって大きなリスクになることがある。デジタル時代はペンで書いていた時代とは違って、文字がはっきり現れる。同時に間違いも可視化されてしまう。ごまかすことができない。つまりその人間の言語能力の一面が可視化されてしまうのだ。

街の広告のポスターも、雑誌の表紙も間違いだらけだ。電光掲示板や、新聞にさえもそれは見つかる(ル・モンドでさえ!)。街角の綴りの間違いをコレクションするサイトをやっている人もいる。Bescherelle ta mère の主催者は綴りの間違いを見せられるのはうんざりすると言う。現在サイトでは、タトゥーとして身体に入れた語の間違いが紹介されている。教育省から学校へのお知らせにまで綴りの間違いがある。これは看過できない。

78%のフランス人が綴りの間違いに対して寛容だ。しかし仕事のキャリアに影響があるとすれば寛容でいられるだろうか。農機を扱う会社の社長さんは、成功者ではあるが、文章を書くと必ず間違う。昔、ディクテ(書き取りの試験)の答案が真っ赤になって返ってきた。14歳で学校をやめて営業職の仕事を始め、文章を書く訓練を十分にできなかった。ひとつの文章を書くだけでもどうしていいかわからなくなる。綴りの間違いを顧客に指摘されるかと思うとひやひやした。trente (30)を tranteと書いてしまう。その苦しみから解放されるために3000ユーロかけて再び職業訓練学校に通う。

フランス人のディクテのレベルは落ちている。CM2(フランスの9歳から11歳レベル)の同じ文章によるディクテの結果。1987年では生徒たちは平均10・7個の間違いをしていた。それから20年後の2007年の平均は14.7で、40%増えた。この数字はとても深い影響を及ぼしている。

リヨンのエンジニアコースの学生たちは、数学や物理ばかりやっていたので、文章の勉強はおざなりになっていた。pourriez か pouriez (pouvoir の条件法)かいまいち自信がない。彼らは履歴書を書くことになったら、信用問題になるかもしれないと考え、ネットで綴りを学ぶプログラムに挑戦する。点数化され、修了書も出る。国には認められてはないが、会社の要請によって生まれた資格だ。仕事のジャンルによって要求される点数も違う。文学を学ぶどころではない。仕事に対応できるような現実的な文章の書き方が求められている。ディプロム(卒業資格)は持っているが、きちんと文章が書けない人が多いからだ。

文章を書けないことに対して雇用者は情け容赦ない。ブランド商品を評価するサイト(日本で言う比較サイト)を運営する会社が、このセクターを拡充するために、サイトの編集者をリクルートすることになった。応募者の履歴書の内容は評価できても、lettre de motivation (履歴書と一緒に提出する自己アピールの文章)の間違いが多すぎる。とにかく最初の1行で2つも間違いがあると、そこで終わり。もう先は読んでもらえない。デジタルなコミュニケーションの会社なので、間違いのない文章をすぐに返すことができる能力が求められる。そういう人間がなかなか見つからない。ウェブに記事を書くジャーナリストとて、綴りと文法の間違いが多いと、ジャーナリストと名乗る資格もないとみなされ、解雇されてしまう。

会社から綴りの間違いを一掃するためも請負人もいる。綴りの間違いは会社の生産性を下げるし、厳密さがないことは信用を失うことにもなる。綴りの間違いを理由に解雇される人たちが実際に増えており、労働裁判においても綴りの間違いは被雇用者に不利になりつつある。

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