フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

あるうち読んどきヤ! 『シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫(たくさんの不思議傑作選)』 福音館書店

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子供の頃の裏読書、といえばチープな図鑑・事典類。世界の不思議、怪奇、妖怪、UFOとうさんくささ丸出しの見出し、荒い粒子の写真と挿絵、大げさな文章。でも、ページを開くたびにわくわく感は高まり、「ほんの少しはみ出すこと」の快感に酔いしれたものです。

そんな読書で出会ったのがシュヴァルの宮殿。フランスの文化遺産であるとは知る由もなく、謎めいた建物と、それをたった独りで建てたというガイジンのおっちゃんのつぶれたようなモノクロの写真は思いっきりあやしげで、イエティやらツタンカーメンの呪いといっしょに、頭の中の“Belileve It or Not”の箱にしまいこまれてしまったのでした。

月日は流れ、「あれ」が立派な芸術作品であり、アウトサイダー・アートの文脈からも語られるべきものらしい、とオトナな見方で捉え始めた今になって、この一冊に巡り会いました。実にありがたい。

まず、「何でこんなものを作る気になったのか?」という謎に答えてくれました。19世紀半ばのフランスに渦巻いたアフリカ・アジアへのあこがれが、字もろくにかけない田舎の郵便配達夫だったシュヴァルおじさんの心にまず火をつけたんですね。配達していた絵入り新聞や雑誌を彩っていた未知の国々についての詳細なイラストや、パリ万国博覧会で人々を驚かせたエキゾチックな展示についての絵はがきに、胸ときめかせていたとは。

宮殿ができるまでのいきさつも丁寧に教えてくれています。雨の日も風の日も、何もない田舎の道をてくてくてくてく歩いて郵便を届ける。そんなしんどくて色数の少ない日々の行き帰りに、シュヴァルおじさんが頭の中で思い描いたのは、華麗な彫刻で埋め尽くされたエキゾチックな宮殿でした。現実逃避の夢想で終わるはずだったのに、たまたま不思議な形状の石ころに蹴つまずいたおかげで、土地で取れる天然石や化石を使えば彫刻に負けない装飾が作れるんじゃないか、ピンときてからは一直線。配達するかたわら石を拾い集めることからスタートし、困惑する家族、白い目で見る隣人達をものともせず、建築について何の知識もないまま、時には人目を避けて夜闇の中で膨大な数の石とセメントを相手に30年以上こつこつ働いた結果だったんですね!年をくった今だからこそ、この事業がいかに大変であったか骨身にしみます。

一世紀後の世を生きる者の目で見てもやっぱりぶっとんでいるシュヴァルおじさんの人生を、平易なことばであえて淡々と語ってみせた専門家の先生の文章にもぐっときますが、添えられたイラストもいい働きをしています。輪郭を感じさせない点描っぽいタッチに押さえた色合いと、絵本にしては地味な印象。が、主張せずにおじさんにぴったり寄り添ってくれているおかげで、彼のくそ真面目な情熱がひしひしと伝わってくるのです。

絵本の中のおじさんの顔はどれも無愛想でがんこ。一見同じに見えますが、だからこそその裏に隠された、ただただ自分が心から「おもしろい」と思うことに邁進することの素直な喜びがじわじわ染みてきて、なんだかこちらもうれしくなったりします。

肝心の宮殿についてもたくさんの写真で紹介されており、謎の解消に大いに役立ちました。こどもの本としても立派なものですが、お子達をダシにして大人も読みたくなる一冊です。

宮殿ツアーの短い動画がここで見れます。

youtu.be/PORBy6-whWY

シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫 (たくさんのふしぎ傑作集)
岡谷 公二
福音館書店
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GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。 門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。