フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

FRENCH BLOOM NET 年末企画(3) 2013年のベスト本

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恒例の年末企画、第3弾は2013年のベスト本です。FBNのライター陣の他に、文芸評論家の陣野俊史さん、高速増殖炉のもんじゅ君、白水社編集部のMさん、東京・飯田橋のフランス語書籍専門の欧明社さんにも参加していただきました。フレンチ本だけでなく、いろんなジャンルの本を取り揃えています! HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)地表に蠢く音楽ども―竹田賢一音楽論集暗殺者たち

陣野俊史(文芸評論家)

ローラン・ビネ『HHhH』(高橋啓訳、東京創元社) 
■ナチスの高官だったラインハルト・ハイドリヒは、緻密な暗殺計画によって殺害された。この小説は、二人のチェコ人青年がハイドリヒを暗殺すべくロンドンに侵入するところから始まるが、歴史的事実だけを集めたものではない。現在までに判明した様々な断片的事実を、文字通り断片のまま書き続け、少しずつ少しずつ、小説の形になっていく。こんな形でナチ問題に接近することもできるのだな、と感慨を覚えた。 竹田賢一『地表に蠢く音楽ども』(月曜社) 
■著者の竹田賢一氏は、あえてこの言葉を使うが、伝説の音楽批評家だ。エレクトリックな大正琴を奏でる音楽家でもある。じつは長く竹田氏のこうした書物が出版されるのを待っていた。待っていたが、あまりに長く待っていたので、もうこの本が書店で普通に売られていること自体、夢みたいだった。この本を手にしたときも、その物質感が容易には信じられなかったほどだ。70年代から80年代の初めにかけて、竹田氏は健筆をふるった。前衛音楽についての文章が多い。固有名詞はいちいち挙げない。こんな時代だから、竹田氏が取り上げているミュージシャンや芸術家の動画を読者は確認することができるだろう(本当はそうでもないかも)。音楽を明晰に語る、批評の極北。 黒川創『暗殺者たち』(新潮社) 
■この本の冒頭、とある日本人作家が、ロシア人学生を前に話し出すところがある。活写されるのは、二十世紀初頭の「暗殺者たち」の横顔。夏目漱石が「満州日日新聞」に寄稿した「韓満所感」という、全集にも入っていない文章が示される。黒川氏は様々な資料を丁寧に示しながら、なおかつ小説としてそれらを取り込むことによって、既存の文学とかドキュメンタリーとか、枠組を壊している。それがちょっと凄い。ミステリーのように読む者を引き込む面白さに満ちている。
PROFILE:1961年、長崎生まれ。著書に『世界史の中のフクシマ—ナガサキから世界へ』『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』がある。 horita01coreenne01弓と竪琴 (岩波文庫)

bird dog(FBNライター)

■今年の前半は、堀田善衞の小説をいくつか読みました。なかでも原爆を扱った『審判』は、なかなかの力作でした。登場人物の老婆曰く、「時世ちうもんはな、ほんのチョンビリチョンビリしかな、進まんのや。そんなもんながやがいね。そいでもな、人死にの出るごとにな、歯止めの杭打つようにしてな、戻らんようになって行くんや。大事ながはあんた、なんとちうても人柱やがいね。」この言葉をエジプトやシリアの現状と重ねて読むとき、痛ましいほど真実であるという気がします。ほかには、カナダのフランス語圏に移民した在日朝鮮人一家の物語を綴る Ook Chung の ”La Trilogie coréenne” や、ようやく読んだオクタビオ・パスの古典的詩論『弓と竪琴』が面白かったです。 ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)会田誠作品集  天才でごめんなさい心ふさがれて

もんじゅ君(高速増殖炉) ヨーロッパ退屈日記(伊丹十三)

■本棚を探したらどこかへいってしまっていて、ことし買い直した一冊。60年代の日本がヨーロッパの文物をどう受けとめていたのかがよくわかる本です。パリやローマやエルメスやアルデンテについてペダンティックに論じながら、ときおり「よのなかを変えていこうよ」というどっしりした反骨精神が垣間見えるのがすてきです。おしゃれ社会派ですね。絵も超うまい。
会田誠作品集 天才でごめんなさい(会田誠)
■なんだか真心のようなものをひしひし感じる個展でした。とてもよかったです。ボクは原発と日本について考えるうえで、さきの戦争の振り返りや、戦後すぐの50年代にどういう社会の変化が起こったのかが大切だと思っていて、会田さんの一部の作品はしっくりきます。
バーバパパシリーズ
■フランスのもの、と考えて思いついたのが、『心ふさがれて』(マリー・ンディアイ)とバーバパパでした。どちらも今年のものではありませんが。バーバパパはこのところライセンスによる日本でのグッズや広告での活躍が目覚ましいです。それにともなって絵本ももっと読まれるといいですね。ボクは2作目『バーバパパのいえさがし 』が好きです。 PROFILE:福井県にすむ高速増殖炉。2011年の原発事故をきっかけに、みずからの危険性にめざめて情報発信を始める。わかりやすいニュース解説で人気に火がつき、ツイッターのフォロワーは10万人を超す。著書『おしえて! もんじゅ君』、代表曲『もんじゅ君音頭』など、原子炉でありながら文筆やイラストから楽曲までと、マルチに活躍中。 ドゥルーズの哲学原理 (岩波現代全書)動きすぎてはいけない: ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学ルイス・ブニュエル

 

不知火検校(FBNライター)

1.様々なドゥルーズ本
■今年は1995年に亡くなったフランスの哲学者ジル・ドゥルーズに関する本が多く出版されました。特に話題になったのは國分功一郎さんの『ドゥルーズの哲学原理』(岩波書店)と千葉雅也さんの『動きすぎてはいけない―ジル・ドゥルーズの生成変化の哲学』(河出書房新社)の二冊ですが、その他にも篤実な若手研究者による本も出版されています。この勢いはしばらく続きそうです。とうに忘れられてもおかしくない哲学者についての研究書がこれだけ出版されるというのは異様なことのように思えます。しかし、かつて中村雄二郎氏が「ドゥルーズの思想は死後にボディブローのように効いてくる」と語っていたように、この哲学者の思想は現代こそまさにその意味が問題となるものなのでしょう。
2.四方田犬彦『ルイス・ブニュエル』(作品社)
■スペインを代表する映画監督ブニュエルに関する研究書は、25年以上前から著者本人によって執筆が宣言されていました。しかし、その後は刊行されるというニュースもなく、多くの人はお蔵入りになったと思っていたはずです。しかし、数年前に病に倒れた著者は、奇跡的に回復し、この渾身の力作によって見事に第一線に返り咲きました。この本のみならず、今年1月に逝去した大島渚に関する研究書(『大島渚と日本』、筑摩書房、2010)や黒沢明に関する研究書(『『七人の侍』と現代――黒澤明 再考』、岩波書店、2010)を読んでみると、四方田氏の執筆活動は益々冴えわたっているように感じられ、その衰えることを知らぬ旺盛な執筆活動には驚かされざるを得ません。
3.『マラルメの現在』(大出敦編、水声社)
■2013年の春に慶應大学で行われた象徴派の詩人ステファヌ・マラルメに関するシンポジウムの記録です。フランス文学の論文集なんて面白いものは殆んどないような気がしますが(失敬!)、これは例外的に成功したものだと思います。書いている人がみな一癖もふた癖もある人ばかりで、あまりにもマニアックな話が多いのですが、限度を超えると逆に爽快に感じます。これを読んでもマラルメという詩人のイメージが固まるどころか益々分からなくなるという意味でも貴重な一冊かも知れません。 洟をたらした神 (中公文庫)猫と生きる。若き日の哀しみ (創元ライブラリ)

exquise(FBNライター)

■今年は今まで最も本を読まなかった年だった。身辺がいろいろと変化したこの一年、いちばん好きなジャンルであるはずの小説は、手元には置くものの、なかなかその世界に入っていけなかった。そのなかで、生活にしっかり根ざした文章、それも女性の綴った文章を手に取ることが多かった。
『洟をたらした神』吉野せい
■最初の1編「春」の色彩豊かで詩的な文章にまず驚かされ、彼女の本格的な執筆活動が70歳を越えてから、ということにさらに驚く。極貧の農業生活や共に苦しむ家族や周囲の人たちとの関わりから生み出された言葉の凄さと重みを感じる。
『猫と生きる』猫沢エミ
■ミュージシャンである猫沢さんが日々の生活を綴ったツイッターやブログをいつも楽しみに読んでいる。彼女が愛猫を連れてパリで数年間を過ごし、日本へ戻ってからその猫を亡くしたのは知っていたが、その最愛の猫との出会いから別れにいたるいきさつや、彼女自身が直面したさまざまな問題が、真摯な言葉でこの本で初めて語られ、読む側は涙腺が緩みっぱなしである。けれども、この本は失う悲しみだけではなく、タイトルどおり生きる力強さも与えてくれるのであり、それは猫沢さんの 飾り気がなく、それでいて粋で生命力にあふれた文章の力によるものだ。
『若き日の哀しみ』ダニロ・キシュ
■旧ユーゴスラヴィア出身の作家による自伝的短編集。ユダヤ人の父親を強制収容所に送られた少年時代の思い出が、シンプルで美しく、ときにおかしみのあることばで語られる。この作品では、少年が愛する犬を失う一編があり、これもまた涙なしには読めない。 安井かずみがいた時代シャガール: 愛と追放ドアノーの贈りもの 田舎の結婚式

白水社 編集部 M

1.島崎今日子『安井かずみがいた時代』(集英社)
2.ジャッキー・ヴォルシュレガー『シャガール』(白水社)
3.ロベール・ドアノー『ドアノーの贈りもの 田舎の結婚式』(河出書房新社)
■1.安井かずみという魅力的でミステリアスな時代の寵児を描くには、この手があったか!と思わずうなってしまう手法に納得。「わたしの城下町」「危険なふたり」「赤い風船」・・・タイトルを聞いただけで小躍りしたくなる彼女の作詩による名曲を章タイトルに、20人あまりの著名人の証言から万華鏡のような安井かずみ像が立ち上がる、渾身のノンフィクション。彼女の華やかな交友関係にも眩暈を覚えるが、なによりも一人の女性にさまざまな顔があることのリアリティに感動を覚える。今年は他にも、山口果林『安部公房とわたし』(講談社)、沢木耕太郎『流星ひとつ』(新潮社。今年亡くなった藤圭子との対話からなるノンフィクション)、酒井順子『ユーミンの罪 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)など、「女の生き方シリーズ」と呼びたくなるような著作が続々と刊行され、どれも面白かった。
■2.女の生き方シリーズでもう一冊、多少フランス的な本を。今年から来年にかけて大規模なシャガール展が日本を巡回中だが、ロシア時代の資料や未公開書簡などを駆使した決定評伝である本書で明らかになるのは、天才画家シャガールの知られざる人生はもちろん、その才能を陰で日なたで支えた女性たちの人生。最初のモデルとなったテア、文字通り〈ミューズ〉であった最初の妻ベラ、その存在を長年伏せられていた愛人ヴァージニア、優れたマネージャーでもあった最後の妻ヴァヴァ。亡くなる瞬間まで描き続けた97年の旺盛な人生は、彼女たちの犠牲の賜物であったと思わずにいられない。カラー口絵32点、モノクロ図版160点で見応えも十分。宣伝抜きで面白いです(笑)。
■3.昨年、東京都写真美術館で回顧展が開かれた写真家ロベール・ドアノー。展覧会の折に刊行された『Rétropective』(クレヴィス)のカバーを飾ったのは、二脚の椅子に結ばれたリボンを婚礼の行列がいままさに切らんとする、「田舎の結婚式」。あの有名な写真の前後には未公開の写真が数十点あり、幸福な一日のドキュメンタリをなしているとは知らなかった。この一連の写真が一冊の写真集として刊行されたのが本書(世界初公開!)。山のような手作りケーキ、一張羅のこどもたち、村を練り歩く長い長い行列・・・どの写真も、素朴な幸福感に溢れていて、いちいち胸がじーんとする。解説は、昨年『野蛮な読書』(集英社)で講談社エッセイ賞を受賞された平松洋子さん。ところで今年の彼女はすごかった。『小鳥来る日』(毎日新聞社)、『ステーキを下町で』(文藝春秋)、『ひさしぶりの海苔弁』(文藝春秋)、『本の花』(本の雑誌社)となんと著作が四点!文庫化も次々と。この一年、読書がほんとうに楽しかったのは、平松さんの本のおかげでもあるような気が。どれも熱烈推薦いたします。

欧明社

Titre : Au revoir la-haut Auteur : Pierre Lemaitre Editeur : Albin Michel lemaitre01
■今年一番の話題作は、フランスで最も権威ある文学賞ゴンクール賞を受賞したこの作品 Au revoir là-haut。来年で100周年を迎える、フランス人が La Grande Guerre と呼ぶ第一次世界大戦で生き残った二人の兵士の奇妙な人生を描いた作品だ。戦場で命を落とせば英雄扱いだが、恩給もろくに支払われない負傷兵には過酷な運命がその後待ち受ける。戦争を利用するもの、利用されるものが作中交じり合っていく。戦死者のための偽の追悼モニュメントや130cmたらずの小さな棺桶を遺族や国に売りつけたりする国家的な詐欺行為が横領する。騙すものも、騙されるものも、だれもが戦争の犠牲者で、作中にはヒーローは登場しない。この時代を生きた人々の苦しみ、悲しみがリアリティをもって綿密に描かれている、560ページにわたる長編大作だ。

Titre : La nostalgie heureuse Auteur : Amelie Nothomb Editeur : Albin Michel
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■フランスで人気のベルギー人作家アメリー・ノートンの新作。在日ベルギー大使を父に持ち、20代まで日本で育った著者がテレビ制作番組の提案で震災後の日本を見舞うドキュメンタリーに立ち会う。日本文化を紹介するエッセーとしても興味深い本作だが、アメリー流辛口評も面白い。エディターと翻訳者が食事の場を気まずいものにしたり、感動的な再会の場面で乳母が痴呆症であることがわかったり、元・婚約者が自惚屋の一面をみせたりと諧謔的なおオチがついてくる。人があらゆる方向に行きかう渋谷の交差点で突然悟りの境地にいたるアメリーが最後に締めくくったフロベールの引用文「La bêtise, c’est de conclure」うまくまとめようとしてはだめ、思ったことを素直につづった懐かしの日本再訪エッセー。

Titre : L’extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire IKEA Auteur : Romain Puértolas Editeur : Le Dillettante voyage01
■時にはキルギスタンで人々の温かさに触れ、時にはカダフィ政権崩壊後のリビアで運命の出会いをする。世界中にストアがあるイケアのタンスの中に入って世界をバックパックしてみるという突飛なストーリー。しかし突飛なストーリーの奥底には、世界中で問題視されている大量生産・大量消費社会への警鐘というメッセージも含まれる。国境警備の勤務中にいとも簡単に国境を通過しようとする不法入国者を目のあたりにしこのアイデアを思いついたと著者は語る。警察官という異色経歴を持つ著者による、フランスで「とにかくオモシロイ!」と話題の作品である。
PROFILE:欧明社はフランス語教材、書籍、電子辞書、雑誌、文具、DVD、映画チケットを扱う書店です。フランスからのお取り寄せやご自宅への郵送もしております。東京で、パリの小さな本屋の雰囲気が味わえます。

superlight(FBNライター)

『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学■今年出たオススメの本として紹介します。TV、新聞、雑誌などで経済に関する話題に接していると、ウソとまではいかないまでも読者などをミスリードさせてしまうんじゃないかという主張に出くわすことがけっこうあります。また、発言者のイデオロギー色が見えかくれしていて、まともな政策提言or批判にすらなってないと思われるようなこともよくあります。そもそも経済(政治もですが)は、いろんな要素が複合的に絡みあうため、上記のような「胡散臭い情報」に対処するにはそれなりに勉強しておかないと、うっかりと騙されて(ま、発言者本人に騙すつもりなどなく、たんに思い違いをしているだけのケースもあるでしょうから、そこが厄介なところでもありますが)しまうかもしれません。そこで、自分の頭で経済を考えてみようという人への有益な第一歩になるかなと思い紹介させていただくのが、『高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学』です。著者の菅原晃さんは現役の高校社会科教諭で、高校生に経済学の基礎の基礎を教えてこられた経験が豊富というところがミソかもしれません。ひとつのテーマをこれでもかというくらいいろんな角度から説明しておられるため、類書では得られないほどの厚みをもって経済学の骨格が理解できるはずです。たとえば本書でも扱われている話題ですが、巷間に流布している「日本の貿易黒字⇔日本のもうけ」「貿易赤字⇔損」という言説は正しいのでしょうか?答えはNOです。そのわけは本書を読んで考えてみてください。(あるいは本書を読む前に「不況(内需の減少)だからこそ貿易黒字になる」をヒントにして、一度ご自身で考えてみてください) 日本文化の論点 (ちくま新書)ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考えるフランス文学と愛 (講談社現代新書)

 

cyberbloom(FBN管理人)


宇野常寛『日本文化の論点』
■AKB の新しさについての話も勉強になるのだが(ようやくトップ3人の顔と名前が一致した)、新美南吉の「おぢいさんのランプ」を通した電子書籍への言及が興味深かった。それは単に紙媒体から電子媒体へという媒体の移行にとどまらない。例えば、現在日本語で書かれた本が流通している形式は、1冊10万から15万字を、大体1万字の章に分けて読ませているが、宇野氏によれば、その形式と分量は何の合理性もなく、ただ出版社の制作コストと書店の陳列ルールの慣習によって決まっているという。支配的な立場の人々の都合がいいからそうしてきただけだ。それは人間が生理的に理解しやすい形式でもリズムでも分量でもなく、それに決して最適化されているものではない。電子媒体が登場して、分量や形式に関して技術的にどうにでもできる今、人間と言葉との関係を、どのような媒体によって、どのくらいの分量で、どのような形式で届けられるのか、否応なく考え直さざるを得ない。私たちはそういう根本的な問題に直面している。これは人間のコミュニケーションと教育を根本的に変えてしまう可能性がある。今や私たちは情報と接する様々な回路を持っていて、本を買って読むことと同じようにして検索エンジンを使いこなす。従来の読書が自分の周囲に情報を積み上げる行為だとすれば、検索エンジンは全く逆の発想に基づいていて、膨大な情報の集積から必要なものを切り取る行為だ。

谷本真由美(@May_Roma)『ノマドと社畜』
■この本は文系人間への警告とも読める。メイロマさんによれば、イギリスでは文系学部の人気が下がり、特に哲学や史学、語学系の学部は廃止または統合され、先生たちも行き場を失っているという。別ソースではアメリカの州立大学で雇用に結びつかない学部の授業料を値上げする動きがあり、人文系学部が真っ先にターゲットになっている。それに対して担当の教授たちは有効な反論ができていないようだ。それはグローバル化によって先進国が受けた重大な影響のひとつ、文系学部の受け皿になっていた誰でもできるサラリーマン的な仕事(つまり大学で何を学んだのか問われないような)が次第になくなり、専門的なスキルや成果ベースの働き方に移っていることの反映だろう。クローバル化した世界では高度なスキルのある人間はまさに国境も時間も関係なく、実入りの良い仕事をすることが可能になる。彼らがジャック・アタリの言うエリートノマド=超ノマドで、一方、ヴァーチャル・ノマドと呼ばれる、定住民でありながら、超ノマドに憧れ、ヴァーチャルに模倣する人々が世界に40億人いる。何のスキルもなく、現状についての知識もなく、まさにラップトップPCやスマホを持っているだけでその気になっているヴァーチャルノマド君が文系学生の中に増殖しているのだと言う。もちろん人文系の知識は、情報産業やクリエイティブ産業が花盛りの時代においてアイデアの宝庫であるはずだ。ゲイツやジョブズに代表される新しい経営者たちはボヘミアンな遊び心や想像力にあふれ、それを仕事に生かしている。今年グーグルがパリに文化センター「Lab」を立ち上げたが、フランスの豊富な文化コンテンツとのシナジーを狙っているようだ。教養的な知識は単独では今の時代なかなか存在意義を見出してもらえない。文化コンテンツとしてわかりやすくまとめつつ、理系的なスキルや技術と結びつく接点を創り出していく努力もこれから必要なのだろう。

野崎歓『フランス文学と愛』
■仏語クラスで使っている映画『スパニッシュ・アパートメント』に、恋人に電話で愛をささやいている主人公がヨーロッパのさまざまな国の出身の同居人に ’Je t’aime, mon amour !’ ’Oh, la la !’ と真似され、からかわれるシーンがある。愛の言葉をささやきながら独特の甘いムードを醸し出し、自らそれに酔うフランス人はヨーロッパにおいても特異な存在なのだろう。フランス語は愛の観念と特別な絆で結ばれ、「愛」について特別な表現力を持つかのように考えられてきた。フランス人自身も半ば当然のようにそう考え、ヨーロッパの他の国民もそう思ってきた。それが広く共有されるに至ったのは、「アムール」のあらゆる相を描き出したフランス文学の力なのだった。17世紀文学からジャンフィリップ・トゥーサン、ミシェル・ウエルベックらの現代作家に至るまで、野崎氏はその多面的な相を鮮やかに描き出していく。トゥーサンと言えば、今年野崎氏の訳による『マリーについての本当の話』も出版された。このマリー “Marie Madeleine Marguerite de Montalte” の4部作シリーズは本国では “Nue” で今年完結している。
■毎年、宇宙物理学者のツィ友、@across_the_view さんにおすすめの1冊を教えていただいている。今年は大栗博司 『強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』でした。 マリーについての本当の話Nue強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く  ↑

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cyberbloom

当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
FRENCH BLOOM NET を始めたのは2004年。映画、音楽、教育、生活、etc・・・ 様々なジャンルでフランス情報を発信しています。

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