フランスからグローバリゼーションとオルタナティブを考える新しいフランス学

FRENCH BLOOM NET 年末企画(3) 2012年のベスト本

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年末企画の第3弾は2012年のベスト本です。ベストCDに引き続き、文芸評論家の陣野俊史さん(著作に『戦争へ、文学へ 「その後」の戦争小説論』『世界史の中のフクシマ—ナガサキから世界へ』など)に参加していただいています。加えて今年はフランス書籍専門店の欧明社さんにフランス語の本を選んでいただきました。

フランス組曲2666核エネルギー言説の戦後史1945-1960: 「被爆の記憶」と「原子力の夢」

陣野俊史(@jinnotoshifumi)
1. イレーヌ・ネミロフスキー 『フランス組曲』(野崎歓、平岡敦訳、白水社)
2. ロベルト・ボラーニョ 『2666』(野谷文昭、内田兆史、久野量一訳、白水社)
3. 山本昭宏 『核エネルギー言説の戦後史1945-1960』(人文書院)
■1 はフランス文学にごく薄く関わりのある者として、どうしても触れておきたい本。アウシュヴィッツの犠牲となった作者が命を賭けて残した本。二〇〇五年に発見されたこの小説が日本語で読める喜び。「二十世紀が遺した最大の奇跡」という惹句がまったくそのとおり、と思える。2 はその膨大な分量と冒険と読んでいっさい差し支えない実験性に瞠目。とにかく、ボラーニョは凄い。なんか途轍もないものを読んでいる気がするし、読み終わってもその感覚が濃密に残る。3 は地味目の本だけれど、核エネルギーをめぐる言説がどう生成してきたのか、若き俊英がつまびらかにする。原爆によって焦土と化した広島や長崎でとりわけ、「原子力の平和利用」という言葉を中心に、核をめぐる言説が反転していく様を追う。あと、どうしても一冊。ジャック・ドンズロ『都市が壊れるとき』(宇城輝人訳、人文書院)も忘れがたい。フランスの郊外問題を真正面から扱う。

bird dog
ダンデライオン (世界傑作絵本シリーズ)1. 映画館に行く代わりに、娘と図書館に通い、絵本を100冊以上借りて読みました。ドン・フリードマンの『ダンデライオン』は心に残る一冊でした。またデンマーク民話『ふとっちょねこ』も新しいお気に入りです。もちろん、せなけいこ、馬場のぼる、小出保子といった日本の絵本作家もよく読みました。
2. Romain Gary, Éducation européenne
■今年はロマン・ガリをよく読みました。(最初の)ゴンクール賞受賞作の『空の根っこ』も、長くて少し息切れしましたが、なんとか読み切りました。自伝的な『夜明けの約束』は、だいぶ前に読んでいましたが、いずれ翻訳したいほど愛着のある本です。この『ヨーロッパの教育』は、1945年のデビュー作ですが、ドゴールから勲章を貰った空軍パイロットが、ポーランドの惨めな学生レジスタンスの姿をなぜこれほど生き生きと描けるのか、本当に不思議です。しかし、その逆説こそは、ロマン・ガリという作家の核心にある「批判的ヒューマニズム」(@ツヴェタン・トドロフ)なのです。
3. Mario de Sá-Carneiro, La Confession de Lúcio
■フェルナンド・ペソアの親友で、最後はタキシードを着込んでパリのホテルの一室で自殺したことで有名な(いや、やはり無名か?)ポルトガルの詩人による不思議な小説です。ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を思わせる、アイデンティティの揺らぎと愛の不可能性をめぐる物語。1913年に書かれました。僕が読んだのはフランス語訳です。
★あと、ロベルト・ボラーニョ『2666』は、たぶん来年度のベスト3に入ると思いますが、まだ読み終えていないので、今回はパス。

トリュフォーの手紙六〇年代ゴダール: リュミエール叢書38 神話と現場不完全さの醍醐味 クロード・シャブロルとの対話

不知火検校
1. 山田宏一 『トリュフォーの手紙』(平凡社)
2. アラン・ベルガラ 『60年代ゴダール』(筑摩書房)
3. フランソワ・ゲリフ 『クロード・シャブロルとの対話』(清流出版)

■今年はフランソワ・トリュフォーの生誕80年ということからか、ヌーヴェル・ヴァーグ関連の本がよく出版されたような気がします。トリュフォーの全書簡集の翻訳は長いあいだ出版が予告されていたのですが、結局は刊行が見送られ、その簡略版として出されました。それでも山田氏あてのトリュフォーの私信などはいまでも十分に胸を打つものがあります。3 は本邦初のシャブロル関連本で、昨年に出たものですが、非常に興味深い内容のものです。あとはリヴェットに関するものが出るとよいのですが…。

剃刀日記 ― シリーズ 日本語の醍醐味 (2)exquise 石川桂郎 『剃刀日記』
■アンソロジーに入っていた短編がすばらしく、すぐにこの作品集を探し出した。理髪師であり俳人である筆者の、端正でありながら視覚に訴える鋭さを持ち、かつどことなくなまめかしい文章は、読んでいて鳥肌が立った。私小説のように見えて、実は創作である、というからくりも凄い。

欧明社
1. 1Q84

■村上春樹の最新長編小説『1Q84』のフランス語版。舞台は1984年の東京。スポーツインストラクターの青豆と予備校の数学教師の天吾、2人の男女が「さきがけ」という宗教団体を通じて起きた事件に巻き込まれていく。1995年に起こった阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件、また2001年にアメリカで起きた同時爆発テロ(9.11事件)の影響を受けたとされる村上春樹。彼特有の世界観で物語が進んでいき、様々な解釈を捉えることができる作品。フランスでも通常版と文庫版が刊行されるほどの人気となっていて、文庫版が刊行された月の月間文庫販売数でフランス全土内3位を記録しました。
2. Le Second souffle
■2011年11月にフランスで公開され、フランス国民の3人に1人が観たといわれる『Intouchable』。日本でも『最強のふたり』というタイトルで公開されており、12月現在でもロングランを記録している。パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった富豪の男フィリップと、スラム町出身で無職の黒人青年ドリス。別々の人生を歩む2人だが、ドリスがフィリップの介護役の面接をきっかけに出会い、衝突を繰り返しながらもお互いにとって必要不可欠な存在になっていく。ユーモアあり、感動ありのヒューマンドラマ。本書はその原作で、今年の大ヒット商品となっています。
3. Place prendre

■ハリーポッターシリーズの著者 J.Kローリング氏による最新刊。イングランド西部にある架空の町パグフォードで、ある議員が40代の若さで死亡した。彼の死亡に伴い選挙が行われることになるが…。一見のどかな町中で一体何が起きているのか。狭い社会の中の不平等や政治問題を、性や暴力の要素を絡めて描いた大人向けの小説。日本語訳は12月1日に『カジュアル・ベイカンシー-突然の空席-』というタイトルで発刊。また、2014年にはイギリスBBCでドラマシリーズ化も決まっており、今後も目が離せない作品です。
●フランス語書籍専門店 欧明社 〒102-0071 東京都千代田区富士見2-3-4(JR総武線飯田橋駅西口より徒歩3分) Tel:03-3262-7276 Fax:03-3230-2517 www.omeisha.com/ ●1947年に開業し、現在は2万冊を超えるフランス語書籍を扱っています。 現在は東京・飯田橋に本店を構え、アンスティチュ東京店、アテネ・フランセ店の2店舗を分店としています。2012年3月には Salon du livre で芸術文化勲章を受章、フランス出版協会(CNL)からは日本で唯一となる認定証を授与されました。


永遠者社会を変えるには (講談社現代新書)さようなら、もんじゅ君---高速増殖炉がかたる原発のホントのおはなし

cyberbloom
1.辻仁成 『永遠者』(文芸春秋)
2.小熊英二 『社会の変えるには』(講談社現代新書)
3.もんじゅ君 『さよならもんじゅ君』(河出書房新社)

■世武裕子さんのCDに続き、パリ在住の作家、辻仁成さんとツィッターでやりとりする中で書く書評はスリリングな体験であった(といいつつまだ書き上がっていない)。辻さんが今年発表した『永遠者』はパリと東京を中心に展開する吸血鬼譚の形を取っているが、とりわけ永遠者となったコウヤの時空感覚や、あてもなく何十年も待ち続ける際の倦怠感に興味を惹かれた。それは命に限りのある人間の本質を反照的にあぶりだすからだ。優れた小説は現在時をも巻き込み、歴史を重層化して見せる。万博に沸き立つ1970年の大阪のシーンやパリのデパートの黎明期の描写に、2012年の刷新されたJR大阪駅と周辺のデパート群の光景がシンクロする。最近バルカン半島では吸血鬼騒ぎが再燃しているらしい。永遠に地中に封じ込めなければならないプルトニウムのメタファーのようなカミーユ。彼女はやはり生きていたのだ。
■小熊さんの『社会の変えるには』を通して官邸前の反原発デモや今回の選挙戦を考えると腑に落ちることが多い。野田首相が自爆ボタンを押したせいで、いきなり今年の最大の政治イベントとして浮上した衆議院選。結果的に自民党が大勝してしまい、小選挙区制が悪いとか、投票率が低かったとか言いながら、みんなやり切れない気持ちをツィートしていた。今の時代は政治が民意を反映していないという気持ちにしばしばとらわれる。それは人々が自由になり、流動性が高まり、「われわれの代表」というときの「われわれ」が解体しつつあるからだ。代議制民主主義はすでに人々を納得させる力を失いつつある。ギリシャ以来の歴史を紐解くと民主主義は「みんなの投票で決まったんだから文句を言うな」と言えるほど単純なものではないようだ。それを埋め合わせるために、デモや社会運動、コミュニティづくりや自治など、様々な形のサブ政治が必要になる。そのサブ政治のアイドルとも言うべき、いまや10万人のフォロワーを持つ「もんじゅ君」。もんじゅ君はその「ゆるキャラ」によって、個人が反原発を表明することの敷居を下げ、原発推進派VS反原発派の対立を相対化することに成功した。バッジとTシャツありがとう。
■次点は、去年紹介しそこねた西川長夫さんの『パリ五月革命 私論』 。スタンダールやボードレールの研究、国民国家批判で知られているが、留学中に68年のカオスを生で体験。数多くの写真を含めた時代の貴重な証言がここにある。またパリ支局長として21年間活躍した元産経新聞記者、山口昌子さんの『なぜ、フランスは一目置かれるのか』や、北アフリカで最も注目される女性作家アシア・ジェバールの『墓のない女』(持田明子訳)もお奨めしたい。未読だが『お父さん、フランス外人部隊に入隊します』という衝撃的な本も出た。最近、フランスの外人部隊が日本語のサイトを開設したことが話題になっていたところだ。こういう選択をする日本の若者に対して親は何を言えるのだろう。
■今年、フランス政府がミシェル・フーコーのアーカイブを国宝 trésor national に認定した。この決定によって、37000枚に及ぶフーコーの原稿は、国外に持ち出したり、売買をすることを禁じられた。またブレーズ・パスカルの『パンセ』の全貌がネット上に公開された。原文のスキャン、未発表の断片、テキスト解説など、研究者とエンジニアが二人三脚で13年かけて実現させた。
■毎年お奨めの理系本を教えてもらっている宇宙物理学者のツイ友、Yoshi Kato PhD ‏(@across_the_view) さんの今年の1冊は『宇宙と生命の起源―ビッグバンから人類誕生まで』 (岩波ジュニア新書)。「古い本ですが自分の恩師が書いた本をオススメします。実はムスメがこの本のイラストが好きらしくて再発見しました」とのこと。お子さんをお持ちの方に。

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当サイト の管理人。大学でフランス語を教えています。
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