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大人な感性で読みたい児童書:『ヤーク』

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子どもと一緒に大笑い!幸せを絵に描いたようなこの風景、実はこと話が読書となると、実現するのは結構難しい。「変な顔」に代表されるヴィジュアルレベルの瞬間的な笑いの反応を除けば、親子が共有する笑いの間には、通常タイムロスが生じる。子ども心をくすぐるのはなんといってもスカトロものかおやじギャグ。しかし、普段から大したことは考えてないくせに、こうしたストレートなギャクに直面すると、大人は知的かつもう少しひねりの効いた笑いを求めてしまう。涙を流して笑い転げている子どもたちを目にして、自然とほころぶ親の顔。しかし、誓って言おう!私の笑いの対象は天地がひっくり返ってもその安直ギャクではない!この笑いは子どもからの伝染!自分に対する失笑でもあるのだ!!

ヤークとはいえ、子育てというのは、自分とは完全に異質な他者である子どもに親が合わせる(意識的にはレベルダウンする)という形で折り合いをつけることを学ぶ繰り返しでもある。例えていうなら、「パンはパンでも食べられるパンはなあに?」と無邪気に聞く子どもに、「そ、そういう答えを口にだすのも恥ずかしいような質問は、勘弁してくれ……」というスレた反応を押し殺し、「フ、フライパン……かな ?」とおずおずと答える。「どうしてわかったの~!すご~い!」というお祭り騒ぎの反応を前に、踏み絵を踏んでしまったかのような後味の悪さを噛みしめつつも、多くの大人は笑顔で子どもに合わせる。そう、おそらく大人たちは子どもの前ではちょっと我慢をしてる。幸福とは、愛とはこのようなものかもしれぬと考えながら……。

朝日学生新聞社から9月末に出版された『ヤーク』は、児童書にカテゴライズされる本ではあるが、実のところ、そんな日常の中で自分の笑いを子どもたちのためにちょっと棚上げしている感のある親たちにこそ手にとってほしい本である。もちろん、子どもは子どもで、そのまま本書に出てくるピュアなエピソードやモンスターのトホホ感を楽しく味わえることは間違いない。しかし、イラスト然り、内容然り、大人の読者は大人な感性のまんま、ブラックユーモアを楽しみつつ、新しい解釈を付け加えることができるのが本書の特徴である。

表紙のイラストを見てみよう。この表紙を飾るモンスターは、第一印象としては妙にかわいらしい。ぱっちりお目めで、花に彩られ、周りでは小鳥たちが楽しく集い穏やかな時を演出している。体の比率に対して異様に小さなその翼はまるでエンジェル。モンスターにしては、なんとも、愛らしい。しかし、よくよく観察してみると、手と口、そこからのぞく立派な歯はアンバランスに大きい。そして、一見したところ愛らしい上目遣いであるかのように思われるその両目は獲物を狙う視線ともとれる。なんとなく不穏な感じ。このイラストが示すアンビバレントなモンスターの特徴は、実は、そのままこの物語の核となっている。子どもがかわいいモンスターを楽しむ傍らで、大人な感性はこの辺の危うい感じを楽しむ。

ちょっとページを開いてみる。主役のモンスター、ヤークは、デリケートでグルメ。野蛮に描かれる子どもたちとは対照的な存在である。そう、子どもたちと違ってヤークはお上品、その繊細さは何となくシュレックが美しい所作でもって食事するシーンを思い出させる。さらにグルメなモンスターは、悪い子を食べると下痢をする。この野蛮な子ども、繊細なモンスターという設定は、なんとも大人心をくすぐる。その結果大人の自然な読みは、ヤークの内面に寄り添うこととなる。

ある日のこと、食べられるよい子を求めて試行錯誤のヤークは、理想的な少女マドレーヌと出会う。 「マドレーヌは本当に親切で優しい。ヤークは心の底から彼女をかわいく思い守ってあげたくなった。ところが不幸にも、かわいく思えば思うほど、ヤークはますます彼女を食べたくなってしまうのだ!」 子どもたちは、純粋に心配するだろう。マドレーヌ、食べられちゃうのかな?大丈夫かな?しかし、大人にとっては、赤ずきんちゃんの例を出すまでもなく性的隠喩を喚起させられるフレーズであることは間違いない。読み進めると、この葛藤から身を守るために、怪物ヤークはアートの道に入ろうとする。ますますおかしい!まさに性エネルギーの昇華!しかし、どんな芸術的行為も彼の欲望をなぐさめることはできない……。 ピュアでブラックなリアリティあふれる現代のおとぎ話、『ヤーク』。笑い、哲学的考察、心理学的読み。笑い転げる子どもたちの傍らで、あなたはどんな大人の読みをする?

『ヤーク』関連ページ:animationdefr.web.fc2.com/ofuransu_deanimashion/yaku.html
Le Yark Facebook (フランス語):www.facebook.com/pages/Le-Yark/133574866719844

寄稿者:miam_bio

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