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仏大統領選2017:自由貿易は悪なのか?

text by / category : 政治・経済

まずは、こちらの記事をご覧ください。先日23日に行われたフランス大統領選で、マクロン氏とルペン氏が決選投票に進むことになりました。EUを離脱するか否か、移民問題をどうするかなど争点はいくつもありますが、今回は経済問題とりわけ「自由貿易」とはいったいどういうものなのかを簡単に整理してみたいと思います。イギリスの「ブレクジット問題」、日本の「TPP問題」、そしてすでに米大統領に就任したトランプ氏やルペン候補の主張する「保護貿易主義」の台頭などによって、なにかと論争の的となる「自由貿易」を「労働者」と「消費者」という二つの観点から考察してみます。

「労働者」と「自由貿易」

まずは労働者にとって自由貿易とはいったいどういう性質のものなのかを考察します。ここでは労働者を「輸入業者」と「輸出業者」にわけて考えてみます。

*輸入業者にとっての自由貿易のメリットとデメリット→デメリットはまったくなしといいきれる。メリットのみ。世界中のあらゆる商品を自由に安く買って国内の消費者に販売することができる。

*輸出業者(国内製造業者)にとっての自由貿易のメリットとデメリット→ケースバイケース。価格や商品そのものの競争力が高い企業にとっては販路が世界に広がることになるので、メリットになる。逆にそういった競争力に弱点を抱えている企業の場合は国内の販路が減少する可能性があるためデメリットとなる。

*「消費者」と「自由貿易」: →つぎに、消費者にとっての自由貿易です。結論からいえば、ほぼ100%といってもいいくらい、世界中の「消費者」にとって「自由貿易」は歓迎すべきものとなるはずです。たとえば、

*車一台の価格 日本:100万円 中国:70万円 インド:50万円 カンボジア:30万円

としてみます。もしも関税が一切ない世の中だと、世界中の人たちが(輸送費などは除く)上記の価格で、好きな商品が買えることになります。ところが現状のように各国が関税をかけている場合、消費者は輸入国に対して「税金」を上乗せしたうえでないと、これら商品を購入することができません。

さらに、つぎの結論も導けるはずです。すなわち、自由貿易は原則的には「貧困層の消費者」に有利に働きます。上記のケースだと、日本、中国、インドの貧困層はカンボジア製の30万円の車なら手が出せるようになるかもしれないということです。(カンボジア国民の貧困層にとってメリットはないかもしれませんが、かといってデメリットがあるわけでもありません。さらにいえば、カンボジアのごく一部の高所得者層しか手に入れられなかった「日本車」が、それ以下の所得者でも購入できる可能性が高まるという意味では、カンボジア国民にとってもメリットはあるといえるでしょう)。

上記のことから見えてくるもの

ここまでご覧いただければお分かりのように、まず自由貿易は「消費者」という観点からすると万々歳の制度といえるでしょう。また、意外に思われたかもしれませんが、世界各国の貧困層とされる人々にとって、高価で手の出しにくかった商品をより安く買うことができるチャンスが広がることにさえつながります。あるいは、自由貿易はあらゆる商品の価格を「下落」させる方向に向かわせるといいかえることもできます。

もちろん、忘れてならないのが「労働者」と自由貿易の関係についてです。なかでも、「価格や商品そのものの競争力が低い国内企業」をいったいどうするのかということに注目が集まると思います。消費者という側面からだけみると間違いなく自由貿易は歓迎すべきものですが、「価格や商品そのものの競争力が低い国内企業」に勤める「消費者」にとってはモノを買う以前に「失業」の危機に怯えなくてはならないからです。(註1)

では、ルペン氏はどうか…。

 そして、ルペン氏のいう「野蛮なグローバリゼーション globalisation sauvage 」というのは、まさにこの点をついてきているのだと思います。この発言の意味するところを正確につかんでおく必要があるでしょう。つまり、「フランスの国内産業を守るために、ほかのことは犠牲(たとえば自由貿易による消費者のメリット)にしても関税を設定し、ユーロからも離脱する」という意味なのか、それとも「自由貿易によるメリットは私も認めるし、もちろん考慮に入れている。それらを考慮したうえで、保護主義のほうがフランス経済全体にとっての利益になる」なのか。

後者であるならばまだいいのですが(註2)、様子うかがっていると「自由貿易のメリット」を完全に無視した形で「保護主義」を謳っているようにしかみえない…。もしも、ルペン氏が当選しても、こんなことにならなければいいのですが…。

(註1)また、自由貿易がある国にもたらすデメリットとして、まず食料自給率や産業構造がいびつになる可能性がある。他国に食糧などを頼りすぎると、いざというときに国の死活問題となる。また特定の自国に有利な産業にばかり人的物的資源が投入されると、一国の産業構造がいびつになる可能性がある。

(註2)ルペン氏自身は「理知的な保護主義」といっていますが、「金融業よりも製造業を優先する国家主導の産業政策を採る。輸入品と外国人労働者には課税し、外国からの投資は厳しい統制の下に置く。国内産業に補助金を与える。特に軍事支出を大幅に拡大し、新たな装備は全てフランスの国防産業から調達する」。これではいわゆる従来の「保護主義」とどこが違うのか、その違いがぼくには見極めにくいです…。こちらの記事を参照

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posted date: 2017/Apr/30 / category: 政治・経済

専門はフランス思想ですが、いまは休業中。大阪の大学でフランス語教師をしています。

小さいころからサッカーをやってきました。が、大学のとき、試合で一生もんの怪我をしたせいでサッカーは諦めて、いまは地元のソフトボールと野球のチームに入って地味にスポーツを続けています。

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