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「ナショナリズムと日本のテレビ」、そして韓国のグローバル戦略

text by / category : 政治・経済

9月3日付ルモンド紙に掲載されたフィリップ・マスメル記者によるコラム「ナショナリズムと日本のテレビ」の一部が日本でも紹介され、話題になった。コラムの前半部でマスメル記者は、8月21日に東京・お台場のフジテレビ本社前で行われた抗議デモを紹介し、デモが起こったのは俳優・高岡蒼甫のツィッターでの発言がきっかけだったと説明している。彼の発言に netto uyoku (ネット右翼)や元横浜市長の中田宏氏が賛同したことから騒動が広がったという。日本の紹介記事はこの部分にのみ焦点をあてていたが、後半は次のように展開している。訳出してみた。

この表出したルサンチマンは、ナショナリズムの熱狂の圧力が定期的に高まる、隣り合った2つの国の関係の難しさを部分的に示している。それに加え、近年韓国のテレビ番組が日本で多くのオーディエンスを獲得している。それは偶然ではない。「韓流」は2004年の「冬のソナタ」の成功以来、日本では崇拝の対象になっている。韓国のロケ地は、日本で「ヨン様」と呼ばれる主演俳優ペ・ヨンジュンのファンたちの巡礼地になっている。それ以来内容は多様化し、今日ではフジテレビが平日の午後に韓国のテレビシリーズを放送している。TBS、テレビ東京、公共放送であるNHKまでも比率は少ないがそれに習っている。それに伴って韓国スターたちが日本に進出してきた。テレビドラマのあとには K-pop という韓国のポップスターたちがやってきた。Kara、少女時代、あるいは SHINee がファンを増やし続け、メンバーのルックスは日本の若者たちの流行に影響を与え始めている。

これらの韓国のポップカルチャーの成功は、自国の娯楽産業をプロモートするための韓国の断行的な政策によって説明される。1997年のアジア危機のあとキム・デジュン大統領によって始められ、最初は映画に集中していたが、今は SM エンターテイメントのような企業に受け継がれている。非常にプロフェッショナルな仕事によって、彼らは製品の品質に配慮しつつ、それらを狙った市場に適応させる。韓国政府は2013年までそれらの輸出をサポートすることにしているが、2010年には約2億ユーロを支出している。この戦略は結果を出している。なぜなら2005年には韓国の娯楽作品の輸出が日本のそれを越えたからだ。日本や中国の他でも、韓流はアジアのほとんどの市場で地位を確立しており、南アメリカでもファンを見つけ、ヨーロッパにも進出している。

日本で韓国製の番組が空白を埋めている。日本経済新聞は8月23日付の紙面で「日本で作られる番組には質の良いものがない」と嘆いている。これは音楽と同様にテレビ連続ドラマに関わる問題で、制作費の高騰と広告の売上が減少していることに由来している。1969年から放映されてきた『水戸黄門』が12月で終わる。メインのスポンサーであったパナソニックがスポンサーを降りると知らせてきたからだ。番組表を埋めるために、日本のテレビ局は品質が良く、コストがかからず、人気のある韓国産の番組をあてにしている。童謡にテレビ局はコストと品質を両立させるために新しいモデルを練り上げようとしている。日本の8つのテレビ制作会社が韓国の同業社とファンドを立ち上げ、3年以内に15本のテレビドラマを制作するという(終)。

Nationalisme et télévision au Japon Le Monde 02.09.11 Philippe Mesmer

以上が後半部の訳である。

日本のテレビの番組表の空白を韓流が埋めたという話は、国営テレビが民営化された直後のフランスの状況と似ている。TF1が民営化によって生まれた番組表の空白を埋めるために安くて品揃えが豊富な日本のアニメを使い、それがフランスの子供たちの心をまたたくまに捉え、爆発的なアニメ普及につながった。もちろん、日本は今の韓国のように戦略的にアニメを輸出したわけではない。日本のアニメはあくまで国内市場向けで、それが売れる輸出品になろうとは想像もしなかった。それに気がつき、COOL JAPAN を世界に売り込もうとし始めたのはずっとあとになってからである。

2018年の冬季オリンピックの開催地が韓国の平昌に決定したことは記憶に新しい。フィギュアスケート選手のキム・ヨナのプレゼン、企業や政府の招致活動や開催に対する国民の圧倒的な支持が成功の勝因と言われている。韓国の政府や企業のオリンピック誘致の真の目的は、オリンピックがもたらす具体的な経済効果ではないようだ。過去の開催地の状況を見ると、地域のへの経済効果も過度には期待できない。それはむしろ韓国のグローバル戦略と深く関わっている。

韓国の市場規模は小さい。GDP は日本の5分の1にすぎない。日本と同じように少子高齢化が進み先細りするのが明らかで、出生率に至っては1・15 (2009年)と日本より低く、世界最低レベルだ。将来、国内市場をあてにできない韓国の企業にとって、新興市場の開拓は不可欠だ。そのために韓国製品のブランド力を高めなくてはらない。企業イメージとブランド認知度を高める上で最も効果的なのが、世界的なスポーツイベントやオリンピックでスポンサーを引き受けること。例えば、サムスン電子は公式スポンサーとしてオリンピックと積極的に関わってきた。キム・ヨナにも資金援助し、彼女は企業キャラクターとして活躍している。ブランド力を高めるための韓国のグローバル戦略の具体策とは、品質の改善、デザインの向上、現地ニーズに合う製品開発、グローバル人材の育成、広告宣伝だという。これは上の記事で K-Pop に関して言われていることであり、「韓流」というソフトコンテンツのブランド戦略にもそのままあてはまる。

一方、韓国の市場規模の5倍ある日本は内需でまかなえるので、ソフトコンテンツを輸出しようというインセンティブがあまり働かない。日本がガラパゴス化するのも、語学のモチベーションが上がりにくいのも、ガチガチのシステムが維持され続けるのも、この微妙なサイズ=市場規模にある。そしてテレビの問題の根本は何よりもテレビ離れにあるのだろう。社員の高給とスポンサーの撤退と制作費の削減についてよく話題になるが、独自で質の良い番組が作れなくなり、韓国製に依存しなければならない事実は、テレビというビジネスモデルが回らなくなったということを示している。所詮テレビは終わりつつあるメディアで、情報やソフトコンテンツの供給も広告市場も、ネットの方に移りつつある。そういう状況で韓国と共同でテレビ番組を作る動きは経営の合理化とコスト削減につながるだろう。賢明な選択のひとつと言える。

最近、いろんな国と人たちと話す機会があったが、そこで裏付けられたのは市場規模と語学に対するモチベーションと翻訳の関係だ。例えば、ブラジル、スペインは市場規模が大きいので、日本と同じように翻訳文化が発達している。市場規模が翻訳コストに見合うのだ。そういう国は語学へのモチベーションが相対的に低くなる。実際、そういう国は英語教育の開始時期が遅いようだ。一方、デンマークは小さい国(人口500万人)で英語が普及している。テレビも英語で放送され、デンマーク語の字幕がつくと言う。そして仕事を探すには外国語を磨いてグローバル市場に打って出るしかない。

□「韓国-内需より輸出:経済規模の小ささを自覚した政府と企業のグローバル戦略」(向山英彦『エコノミスト9/6』)を参照

 



posted date: 2011/Sep/19 / category: 政治・経済
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