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音を見る、動きを聴く —ドヴォルザーク『弦楽セレナーデ ホ長調』第1楽章

text by / category : 音楽 / 演劇・バレエ

冬がうららかにほどけてゆくかと思いきや突然雪が降ってくる、3月はとらえどころがない月。この頃に個人的に聴きたくなる音楽には共通点があることに気がついた。どの曲にも一つまみの激しさ、乱暴さ、をはらんでいる。

今回選んだのも、そういった一曲。若きドヴォルザークがたった12日間で一気呵成に書き上げた、勢いのある作品。作曲家の中でりんりんと鳴り響いたものをとにかく譜面に書き取った、そんな鮮烈さのある音楽だ。

1973年からハンブルク・バレエを率いるアメリカ人コリオグラファー、ジョン・ノイマイヤーがこの作品に振りつけてできたのが『Spring and Fall』。春と秋、でもあり、跳躍と落下、とも取れるダブルミーニングのタイトルをもつ舞台作品だ。

コリオグラファーによっては音楽は自分のクリエイションの伴奏でしかないが、ノイマイヤーの場合はまず音楽ありき。マーラーの交響曲やバッハのミサ曲を丸々バレエ化しているが、音楽が与えてくれた感動がその創作の原動力となっている。「音楽が決定をくだす」のだそうだ。

ドヴォルザークの中で鳴り響いた音楽を聴いたときに、ノイマイヤーの中でまたりんりんと鳴り響いたものをコリオグラフィーとして写し取った―『Spring and Fall』はそんな作品だ。衣装、照明・舞台美術もノイマイヤー本人が手がけており、まさに「私の中にわきあがったものの再現」と言えるだろう。今回取り上げるのは第1楽章、タイトルのSpringに呼応するとおぼしきパートだ。

いい音楽を聴くと何かを感じる。が、ここのフレーズ、このメロディー、この音色が耳に入った瞬間に感じた「ああ」を別の何か―たとえばコトバとか―で捉えなおすことはまあない。感じるがまま、それだけで十分というのが自分なりの音楽へのアティテュードだった。

だから、ノイマイヤーが弦楽セレナーデから感じとりコリオグラフィーという形で写し取ったものを音楽と同時進行で見せられたときには、不思議な感覚におそわれた。よく知っているはずの音楽をもういっぺん「さら」の状態で聴きなおしたような感じだ。音楽の緩急・強弱が可視化されただけでなく、耳だけで音楽と接したときに沸き上がった、つかみどころのない何か、センセーションとまではいかなくとも背中を伝ってきたあの感じ、がダンサーの動き、ときにはダンサーの身体全体(上半身裸の男性ダンサー達が発散させている若さも含めて)を通して目に見えるものになっている。精緻な輪郭線が浮かびあがるというより、太い筆で画布に気持よい線がつぎつぎひかれてゆくのをみるようだ。

舞台上のダンサー達が動くさまを目で追いながら、頭だけで、耳だけで音楽を聴いていたわけではなかったんだな、と今さらながら気がついた。こんな明確なイメージにはならなかったけれど、自分の中には音に反応して動き跳ぶひとがいたのだと。妙にストイックな思い込みをさらっとひっくりかえされ、清々しい気分だ。

結びに、最近読み返して見つけた一文を引きたい。3月が来るたびに感じていたものの正体を明かしてくれただけでなく、ドヴォルザークの音楽からもノイマイヤーのコリオグラフィーからも発散されているものをみごとに言葉にしてくれてるように思う。 

「去りゆく冬と一緒に、振り返ることのできない過ぎ来しを、いっきょに断ち切るような断念と、いかなる未来か、わかりようもない心の原野に押し出されるような一瞬が、冬と春との間に訪れる。」

                                  『食べごしらえ おままごと』 石牟礼道子

 

どんなものか試してみたい、覗いてみたい方はこちらをどうぞ。

劇場中継で前置きが長いので、お急ぎの方は1分42秒後あたりからスタートください。

これに「!」と来た方には、第4楽章もおすすめしたい。YouTubeでルグリ(初演のキャストだった)とアバニャートによるパ・ド・ドゥを、どうぞ探してみて下さい。

 



posted date: 2018/Mar/31 / category: 音楽演劇・バレエ

GOYAAKOD=Get Off Your Ass And Knock On Doors.

大阪市内のオフィスで働く勤め人。アメリカの雑誌を読むのが趣味。
門外漢の気楽な立場から、フランスやフランス文化について見知った事、思うことなどをお届けします。

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