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私はこんなふう、これがお似合い。 RECTO VERSO / ZAZザーズ

text by / category : 音楽

ザーズの2枚目のオリジナルアルバム。やっと出ましたね。タイトルの Recto Verso (レクト・ヴェルソ)は一枚の紙の表と裏の意。「見せかけの私と本当の私」というところか。 爆発的に売れたデビューアルバムから3年。制作に当たっては相当なプレッシャーがあったはずだ。方向性について悩むところも大きかったのではないかと思う。 Recto Verso(世界展開などをにらみ)前作よりはもっと普通のポップス寄りの作品になるのではないかと予想していた(また、そうなったらイヤだなーと個人的には思っていた)のだが、聞いてみると「マヌーシュ・ジャズ+シャンソン」に重心を置いた相変わらずの音楽性である。予想が外れてよかった。

この人の元気でハスキーな声にはやはりこの手の音楽が一番よく似合う。この系統の曲では2曲目の Comme ci,comme ça が一番いい。”Je suis comme ci / Et ça me va / Vous ne me changerez pas”(わたしはこんなふう/これがお似合い/私を変えようったってダメ)というルフランが印象的な「自分宣言」の歌である。また、シャルル・アズナヴール Charles Aznavourの Oublie Loulou のカバーもすばらしい。心から楽しんでやっていることがよく分かるし、恐ろしいほどの歌唱力にも舌を巻く。

マヌーシュ・ジャズ方面以外ではジャン=ジャック・ゴールドマン Jean-JacquesGoldman 作の Si が傑作だ(ゴールドマンはこの曲のプロデュースも担当。ちなみにこの曲、彼自身の昔の名作 Nos mains に歌詞や音楽のコンセプトがちょっと似ている。使い回し? それともセルフアンサーソング?)。ピアノを中心とした最小限の伴奏をバックに、ザーズの絶唱が冴え渡る。

前作の Éblouie Par La Nuit が好きな人ならきっと気に入るだろう。というか、この新旧の2曲を並べて聞けば、この3年間の彼女の歌手としての成長も如実に分かる。また、ウルス Ours 作の Nous debout、ミカエル・フュルノン Mickaël Furnon 作の Gamine の2曲は、前作には見られなかったギターポップ風の軽快な曲で、比較的重い雰囲気の曲が続くアルバムのなかでとても楽しいアクセントになっている。 いいアルバムだと思う。

2010年、デビューアルバムが大ヒットし、瞬く間にトップスターになったザーズ。だが成功について回る苦労は相当なものだったようだ。世界中を回るコンサートツアー。信じられないほどの過密スケジュール(ベッドからどうしても起き上がれず公演をキャンセルしたこともあったらしい)。ひっきりなしに浴びせられるさまざまな批判(「お金じゃ幸せは得られない」と歌うデビュー曲 Je veux にひっかけての商業的成功への揶揄、あるいは音楽とは無関係の服装や髪型に関する中傷など)…。当時を振り返り本人は「どん底」の「burn-out(燃え尽き症候群)」状態だったと告白している。 (参照したインタビュー: http://www.chartsinfrance.net/ZAZ/news-85364.html

そんな彼女が何とか苦しい時期を乗り越え、本来の自分を取り戻し(je suis comme ci,et ça me va!)、新しい音楽を聴かせてくれることは本当に喜ばしいことだと思う。

◆フランス盤は2種類あるが、限定盤の方が3曲多く、レコーディング風景やインタビューが収録されたDVD(PAL)が付いている。どうせならこちらをどうぞ。

On ira(ファーストシングルのPV)

Si (ライブ) Love Songs: Limited Bonus Track Edition

◆ついでにひとこと。Zaz のアルバムと同日に発売されたヴァネッサ・パラディ Vanessa Paradis の Love Songs (制作はバンジャマン・ビオレBenjamin Biolay が担当)も聞いてみたが、こちらはどうもさえない印象。なかにはいい曲もあるのだが、全体的には80点くらいの変わりばえのしない曲が延々と並んでいるといった感じ。2枚組にした意味が分からないし、正直いって最後まで聴くのはつらかった。ウェルメイドではあるがありきたりのヴァリエテ・アルバム。レニー・クラヴィッツや -M-(Matthieu Chedid)が手がけた作品群に比べるとどうしても見劣りがする。ちょっと残念。



posted date: 2013/May/21 / category: 音楽
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