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過熱するレッドカーペットビジネス―『レッドカーペットの舞台裏』

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先日NHKのBSプレミアムで放映された『レッドカーペットの舞台裏』、制作はフランスのプロダクションだそうですが、なかなか興味深い番組でした。レッドカーペットビジネスとは、レッドカーペットを歩く女優にドレスやジュエリーを身につけてもらいブランドの宣伝を行うこと。いまやアカデミー賞のレッドカーペットは世界最大のファッションショーと化し、有名女優にはブランド側からオリジナルのドレスが提供されたり、さらには商品を身につけてもらうために巨額の報酬が支払われる場合もあるとか。

レッドカーペットを歩く女優陣に対し、レポーターからドレスやジュエリーについて質問がなされるのはすでにお馴染みの風景。ブランドの名前はインターネットを通じて一瞬で全世界に配信され、その宣伝効果は計り知れない。無論、女優が着用するような高価なドレスを一般人が購入できるわけはない。ブランド側の狙いはバッグや靴、香水や化粧品を買ってもらうことだ。ファン心理とは不思議なもの、一種の「刷り込み効果」で憧れの女優が身に着けたブランドの商品が欲しくなるのである。 2000年代前半から女優(セレブ)とファッションの結びつきが強まり、ファッション誌の表紙をハリウッドスターが飾るようになった。ブランドのなかには女優と専属契約を結び、厳しい制約を課して宣伝活動に従事してもらう場合もある。番組内ではファッション関連の仕事が本業よりも目立つ女優としてスカーレット・ヨハンソンの名前が挙げられ、またシャロン・ストーンやデミ・ムーアはいまや女優ではなく「レッドカーペット・スター」であると揶揄されていた。 そして女優達は演技だけでなく、レッドカーペット上でもドレスで優劣をつけられることに。結果、批判を恐れる彼女たちのファッションは保守的になり、個性が失われてしまう傾向にある。ただしファッション関係の仕事が増えたのは、女優達にとってマイナス面だけではない。例えばモニカ・ベルッチは広告の仕事で収入が得られることによって経済的に安定し、低いギャラでも出演したい映画の仕事を選択できるようになったというメリットを述べている。 一方、過熱するレッドカーペットビジネスについて批判的なデザイナーもいる。マーク・ジェイコブスは「レッドカーペットのために服を作る気などない」と述べ、カール・ラガーフェルドは「このままでは悪趣味の巣窟、ファッションのあり方を見直すべきである」と苦言を呈した。 番組では最後にアンディ・ウォーホルの「財力と知名度が個性をかき消す世界」という言葉を引用し、レッドカーペットはまさにこの状況に陥っていると指摘する。財力を使って名声を保とうとすれば、個性は消されてしまう。メジャーブランドが莫大な予算をかけて提供した衣装をまとい、レッドカーペットを歩くセレブ達の姿―そこがアカデミー賞なのかカンヌなのか、同じようなドレスを着用して微笑んでいるのは誰なのか、もはや区別がつかなくなってくる。それはまるで店に並ぶ大量生産された商品のようではないか。 以上が番組の趣旨だが、改めて痛感したのが、ブランドの生命線はあくまでも知名度であるということ。どんなに素晴らしいクリエイションを行っていても、ビジネスである以上知ってもらい、憧れてもらわなければ意味がない。あのセレブが愛用、このモデルが着用、などというキャッチフレーズがつけばてっとり早く人々の注目を集めることができる。だがそれは諸刃の剣でもあり、安易な宣伝方法はブランドのイメージを損なう恐れもあるのだ。ブランドイメージのコントロールとビジネスを両立させるのは容易なことではない。この『ブランドビジネス』は、2004年出版ということで内容的にはやや古い部分もあるが、ルイヴィトンが日本で成功した経緯やライセンスビジネスについてなどわかりやすくまとまっており、一読の価値あり。ブランドに興味がある人もない人も、ビジネスという側面から興味が深まること間違いなし、お勧めです。 □三田村 蕗子著 『ブランドビジネス』 (平凡社新書) 寄稿者:cespetitsriens



posted date: 2012/Apr/05 / category: ライフスタイル
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